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2014/06/02

78.「再生と不死」

 「再生と不死」(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)。

 野ざらし。複葬制の第一段階ではなく、当初から放置されたもの。
 ムンとマブイの二つの霊魂の処方によって死は完成していく。
 ムンの除去(モノ追い)、そしてマブイの引き離し(マブイ別し)。
 この二つが伝統的な琉球葬制。

 「最初から肉体はマブイの包装物にすぎなかったのである」(p.607)。

 琉球列島では、濃厚に伝承された喪屋制の中で、かつては死と対峙してきた現実的な歴史がある。死臭、腐敗、骨化と、破滅していく人間の悲惨なさまがわりを、自分の目で確かめてきた経験をもっている。つまりほんとうの死を知っているのだ。現代社会は、その「ほんとうの死」から目をそらし、舌触りのよいオブラートで死の醜さを包み近でしまった案感がある。死者の偉大さをたたえて花輪で化ありがとうございます。zり思わせぶりの弔辞で悲しみを泡立て、そして壮大な祭壇w容易し、死者の記念碑を構築してきら。しかし、こおにょうに死を飾れば飾るほど、死の本来の姿から遠ざかってしまう。つまり、腐敗解体していく人間の「ほんとうの死」から目を背け、死を表面的にしか見なくなってから、死を美化する傾向が変わって登場する。すなわち「作られた死」への傾斜である(p.608)。

 琉球葬法
 1.霊魂を除去して早急に死者を放棄し、いっさいのものを忘却する
 2.二次三次と複葬の手続きをふんで、霊魂の慰撫につとめる
 前者を伝統的なものとみなした(p.609)。

 出生と同時に行われるマブイゴメ、死に際して欠かせないマブイ別し、その別されたマブイは、また新しい生のマブイゴメへと反芻していく。これが琉球の、というより、あるいは日本人の原信仰であって、死によって、その霊魂は海上はるかな場所に去っていくというような他界観念に共鳴できない理由がそこにある(p.610)。
 死が生に還元されていくような信仰は、おそらく祖先信仰とは相容れないだろうと思う。それは、巨大な墓や位牌祭祀にみられるように、死者を人間の魂の外に祭場を設けて祀るのが祖先祭祀であるが、死者の守護霊を継承していこうとする再生信仰を基盤とする社会では、それを形のある霊代として外部に設定する必要はなかったからである。琉球列島で墓制や位牌祭祀の成立がおくれたという理由も、再生信仰がその基盤にあったからと考えられるし、火葬が古くからなかったということも、火葬が再生を拒否すると考えられていたからであろう(p.610)。

 「琉球列島で墓制や位牌祭祀の成立がおくれた」のは再生信仰があっためだとするのは、再生信仰に位牌祭祀はそぐわないというのは頷ける。「巨大な墓や位牌祭祀」という祖先崇拝の過剰化は、再生信仰が信じられなくなった後の現象だと言うことができる。

 この死を絶望的で、そして悲しくさせたのは仏教であろう。(中略)。つまり仏教でいう死者の住む世界は「往生」であって、そこは生きている者の住む現世に戻ることの絶対に許されない、隔絶された世界である。この戻れないという考えが、結局、死をいちだんと悲しいものにしてしまう。再生信仰を基盤とする社会では、因果応報の思想はほとんどその意味をもたない。琉球列島に因果応報の考えの薄いとみられるのはそのためであろう(p611)。

 仏教は、死を絶望的で悲しくさせたというより、現世の辛さ苦しみを、繰り返さなくて済むようにしたと言ったほうがいいのではないか。ただ、「琉球列島に因果応報の考えの薄いとみられる」のは実感的にわかる。

 不老不死の薬を求めて流浪した、除福の伝説をのせて、黒潮は琉球列島の東を北に向かって流れている。そして、奄美の古老たちが口をそろえていう「いちばん亡霊の多いところ」の種子ヶ島の近くを横切って、太平洋側を伊豆七島の沖に向けて流れていく。これが青ヶ島の人のいう「黒瀬川」である。数知れぬ不幸と、未知なるものを携えて流れつづけるこの黒瀬川の源流のほとり、琉球の島々を囲繞する美しい渚には、今日もまた衣ずれを思わせる静かな波が、忘却をつなぎあわせる空しい努力を続けている。その波の音の中で、人びとは人間の本性の中にひそむ、飾り気のない素朴な感情で、死と言う破局を償うために、いくつもの節目のある一本の輪をたぐりながら、生から死、死から生へと、終ることのない時を数えているのである(p.612)。

 ほんとうに美しい本文の終わり。


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