40.「他界の色」
「他界の色」(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)。
沖縄の周辺に散在するアォ、ワォと呼ぶ島が、すべて葬地だとは断定できないが、少なくともその多くが、海を越えた場所、もしくは共同社会の圏外に設置されたということである。おそらくそこには、死に対する基本的な考え方、または他界に対する伝統的な観念が働いていたためではないだろうか(p.303)。
この節では、「青」が死の世界の色であるという仲松弥秀や谷川健一の説が採られ、常見純一が国頭を調査して、「赤」を死、「青」を生と位置づけた説(「青い生と赤い死」)は簡単に退けられている。しかし、ことはそう単純ではないと思える。常見の説には説得力があるからだ。
言語学の崎山理は、「日本語の混合的特徴―オーストロネシア祖語から古代日本語へ音法則と意味変化―」(2012)のなかで、「白、黒、赤、青」は最初は色彩名ではなかったと書いている。
・「光」 > シラ「白」 / シロ「白」/
・「闇」 > クラ「暗」 / クロ「黒」 / クレ「暮」
・「昇り」> アカ「赤,明」 / ― /アケ「朱、開、明」
・「中空」> アワ(アハ)「淡」/ アヲ「青」
これで見ると、白と黒は色彩ではなく明度を指している。「青」の元になる「中空」も同様だ。
「青は本来、白と黒の中間を示し、時には白、黒もさす(『日国辞』)」
「『源氏物語』もすべて「淡い」を意味する」
「近江の語源とされるアハ-うみ「淡海,相海」『万葉集』、アフ-み「阿布彌、阿甫彌、阿符美」『日本書紀』の歴史的仮名遣いにはワ行音との混乱があり、アワ - うみが本来の語源であると考えられる。平均40 mしかない琵琶湖の湖面は中空の色を反射して鏡のように刻々と変化する。古代人はそれを熟知していたと思われる」
地名も初期の語法を残すとすれば、奥武島などのオーが、本来は「淡い」という意味で、「中空の色を反射して鏡のように刻々と変化する」島近くの海面のさまを頼りに名づけられたものだと解することができる。
与論では、赤崎、寺崎、黒花が、この色彩、明度をめぐる色名で表されている。寺崎の「寺」は「白」だ。黒花の「花」は突端を意味し、喜屋武では無鼻崎と「鼻」の字が当てられている。
「青」は本当に死の色だろうか。与論でも、イシャトゥを避けるための呪言に「アーミャー(赤猫)」(「無学日記」)があるが、この言葉では、「赤」は死に近い意味で使われている。一方、島の東南端の「赤崎」は、「昇り」という意味にとても適った地名だ。
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