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2014/04/09

26.「背守りと守護霊」

 「背守りと守護霊」(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)。

 マブイの場所と形態。

 霊魂が安定した大人の場合と違って、幼児のようにまだ不安定な人間のマブイは容易に遊離する。したがって、突発事故などのためにマブイが遊離する以前に、普段から何らかの方法でマブイを定着させる注意が必要であった。その方法の一つが大和をはじめ各地に残る「背守り」で、産着の後襟につける三角布がそれである(p.180)。

・ハビラ(蝶)袋。白米三粒と白髪三本を入れる(加計呂麻島)。
・名付け祝いのとき、初着の後襟に長寿者の白髪と白米三粒を縫いこむ。「マブイ袋を縫う」(与論島)。
・古くは魔よけとして臭いの強い植物をいれた。チャジフド(徳之島)。

 「人間の魂は後頭部から背中にかけて留まっていて、その附近から出入りすると考えていた」(p.182)。

 マブイの形は三角形。

近年この三角形をもって女性の陰部にたとえ、生産と豊穣に結びつく呪術と説く人もいるが、この説を私はとらない。それは柳田國男氏が考えるように、人間の生きる原動力となる心臓の形からの連想というのはいちばん説得力がある。ただ心臓からくる原動力というのは、呼吸をして生きていく肉体の部分の象徴で、その場所は胸部である。これに対して魂の活源はむしろ後頭部辺りにあり、その出入口が背守りの部分ということになる。しかしそのいずれにせよ、霊魂をもし形であらわすとすれば三角の形がいちばん妥当であろう(p.184)。

 しかし、「イキマブイが笑っていると、もう取り返しはできないが、うつむいているときにはまだつれ戻すことができる」と沖縄で言われるように、マブイそのものは人間の身体と同じ形をしていると認識されているのではないだろうか。だから、三角形というのは、マブイの象徴の形である。そして、マブイの象徴という時、その元になるのが「女性の陰部」というのは論外としても、「心臓」であるかどうかも疑わしい点があるのではないだろうか。初期の琉球弧人にとって、その象徴になるのが、直接的な視角に入らない心臓であるとするのは抽象度が高すぎる気がする。それよりは、加計呂麻島で「ハビラ(蝶)袋」と呼ぶように、ハビラ(蝶)にマブイの象徴を見るのであれば、ハビラの三角形なのではないだろうか。

 「以前婚礼の宴にハビラ(蛾)が三匹、三味線にあわせて調子よく舞いあがった。音曲がやむとそのハビラは畳に落ちた。そのハビラは酒好きであった亡き祖父の姿によく似ていたので、たれかが「祖父を躍らせよ」といって音曲を鳴らすと、そのハビラはまた空中で舞いはじめたという(大島瀬戸内町)」(p.184)

 この例では、ハビラを象徴としているのではなく、ハビラに祖父の姿をみるという抽象度の高い見立てが行われている。この見立てを通じて、三角形はマブイの象徴と化したのではないだろうか。

 柳田國男は、魂だけではなく、餅の紡錘形や握飯の三角形も、「心臓」をかたどるものと考えたが、吉本隆明は「山容」に求めている。

 餅の紡錘形や握飯の三角形を、柳田はひとの心臓をかたどるものとしている。その根拠とかんがえられたのは、山の神祭りのときに家族の数とおなじ数の餅を供えたり、子供がひとりずつ親に鏡餅をすえる風習によることがとてもよくわかる。だがこれは根拠がすくない気がする。機能的にいえば餅や握飯の形がそう作りやすいからということにおもえるが、それよりも山容から発生した形態の起源につながる相似形の感覚によっているように見える。(「形態論」『ハイ・イメージ論〈1〉』

 山頂の巨石や樹木が最初の信仰の場所ではなく、洞窟であった琉球弧には、「山容」も当てはまらないと思える。



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コメント

 びっくりすること、を、 マーブイヌガチという。

 マーブイとぅらりてぃ、とかもある。

 マーブイが肉体の何処にあるのかを考えるのも面白い。
まくとぅの心は ハートにあるという。
心臓なのか 頭脳、思考なのか・・・?
 
 キムも何処にあるの?

 豚の心臓を下さい」と言って笑われた、
方言のなかに 意外にマーブイを考えるヒントが・・・。
  蝶々に魂を感じてしまう 自然崇拝、畏敬の念。
 大切にしたい 故郷を思う  誠の心。

  至誠一心。

投稿: 泡 盛窪 | 2014/04/09 05:16

盛窪さん

> 方言のなかに 意外にマーブイを考えるヒントが・・・。

はい、もっと使えるようになりたいと思います。サンミンとダンミンの違いを教えてもらった時も、はっとしました。

投稿: 喜山 | 2014/04/10 06:02

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