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2014/01/26

w > (p) > Φ

 「フナグとヲゥナグ」について、続ける。

 「P音考」を書いた上田万年によれば、「k/g、 t/dの清音と濁音の音韻的対立から考えて p/bでなければならない」としている。すると、「フナグとヲゥナグ」で考えた、麦屋のH音を、八重山のB音の清音化したものと捉えたことは誤りということになる。

また、中本譲によれば、

 琉球方言の音韻の中には、上代、もしくはそれ以前の古い姿が保持されている可能性があるとして、これまで研究が進められてきた。例えば、日本語のワ行子音に対応するb音は、文献以前に遡る古い音である可能性が示唆されてきたし、上代特殊仮名遣いが残存している可能性も示唆されてきた。しかし、現時点ではどちらも証明されるに至らず、ワ行子音b音においては、既に述べたとおり、w > b の見方が優勢となっている(p.219『沖縄文化はどこから来たか―グスク時代という画期』)。

 とある。

 すると、麦屋のB音は、W音化するのとは別に、H音化した流れと捉えることもできないことになる。

 サイコロみたいに振りだしに戻る感じだが、新垣公弥子は、「琉球方言におけるワ行子音の変遷- 「斎場御獄」の事例から-」(2010年)のなかで、w > b という流れとは別に、w > (p) > Φという経路を捉えている。

 新垣は、中本正智の『図説琉球語辞典』(1981年)を元にその変遷を辿っているが、ここに麦屋方言のケースを当てはめると、興味深い。

1.「夫」

 「夫を表す琉球語は、ウトゥ系 ・グトゥ系 ・ブトゥ系であ り、単一話形の*wopitoにさかのぼる」(p.12)。新垣は、。「沖永良部島と与論島は圧倒的にwutuである」としているが、ここに麦屋方言を当てはめれば、[Φutu]である。同じ音韻は、ここに掲載されている地図からは、粟国島が唯一、見つかる。

 なお、宮古、八重山で「夫」を表す[butu]は、与論では男根の意味だ。

2.「女きょうだい」

 「この語は、ヲナ リ系とブナ リ系の2つに分類される」として、与論は、[wunai]とされているが、ここでも、麦屋は、[Φunai]である。これは勝連半島の屋慶名[Φunai]と同じで、粟国の[Φinai]にも近い。

4.「男」

 「全琉球の 「男」を表す語は 「ヱケリ」に対応する」。ここでも、与論は[wuiga]とされているが、麦屋は[Φuiga]である。これと同じなのは、大宜見村の屋古のみ。

5.「砂糖きび」

 「全琉球の 「砂糖きび」を表す語は 「ヲギ」に対応する」。与論は[wugi]。これについては、地図でも、麦屋は[Φugi]として認識されている。同じ音韻は他島に見出せないが、近いものとして、粟国島、勝連半島の屋慶名の[Φu(:)d3(表記できない]がある。

8.「女」

 「全琉球の 「女」を表す語は 「ヲナゴ」に対応する」。与論は、[wunagu]になる。麦屋は、[Φunagu]であると認識されている。麦屋の他には見られない。

5.9 「男きょうだい」

 「全琉球の 「男きょうだい」を表す語嚢は「ヱケリ」に対応する」。「 この語は、ヰキー系とビギ リ系の2つに分類され」、与論はヰキー[jikj:]、麦屋はイキー[iki:]とされている。しかし、菊千代の「与論方言辞典」では、フイビ[Φuibi]になっている。

 これは、「ヱケリ」についても、w > (p) > Φが想定できるということかもしれない。

 また、『図説琉球語辞典』に直接、当たると、「拝む」についても、麦屋はフガムン[Φugamun]であるのに対して、他はウガムン[?ugamun]であるとされている。そして「拝む」が、フガムン[Φugamun]になるのは、これも粟国島だ。

 これらを辿ると、麦屋方言は、W音からΦ(F)音への変化したものだということになる。しかも、複数の単語で、Φ音が認められ、奄美では類似はない。粟国島と勝連半島の屋慶名とは複数の語で、同一、類似が見出せるのが面白い。

 振り出しから駒すすめに乗り出せたこと、新垣公弥子に感謝したい。

 なお、新垣は、b音とw音の新旧関係について、ことはそう単純ではないとしている。

ワ行子音の概要を大 まかに示せば (W>b>W)という変化 を辿る。村山は前半部分の(W>b)を、そ して名嘉真は後半部分の (b>W)を切 り取 り、それぞれが検証し考察を進めていたということであろう。そのため、それぞれの検証結果は決 して間違ったものではないが、しか し相反する結論が導き出された。 これ らの事実を踏まえれば、琉球方言のり行子音の変化は例えば 「Ⅹ-Y」のような単純な変化ではないということが考えられる(p.22)。


『図説琉球語辞典』


『沖縄文化はどこから来たか―グスク時代という画期』
 

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