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2012/10/14

「吉本隆明と3.11以後の思想」

 10月13日、新宿の都庁近く、新宿住友ビルの「朝日カルチャーセンター」に、加藤典洋の講演を聴きに行った。テーマは、「吉本隆明と3.11以後の思想」。吉本亡き後、どのように考えていけばよいのか、そのことが切実な者にとってはこのテーマはタイムリーだし、その場が吉本が『ハイ・イメージ論』で「多空間論」を展開したときにサンプルとして採った新宿の超高層ビル群のなかだったのには、ちょっとした感慨も覚えた。

 加藤は、亡くなった後に吉本の書いたものを読んでひとつの発見があったと語った。それは、大勢と違う発言はどこからくるのか、ということを巡ってのことだった。思い返すだけでも、安保反対の理由、転向の定義、「反核」異論、反原発運動異論、オウム真理教をめぐる発言、そしてこのたびの原発事故をめぐる発言と、大勢とは異なる発言を吉本は繰り返してきたし、その姿勢は最後の原発事故をめぐってのことまで変わることはなかった。一方で、その発言の根拠にはいつも分かりにくさが付きまとっていたように思う。その分かりにくさは、明瞭ではないという意味ではなく、吉本に見えているものがぼくたちには見えていないことからくるのではないかと思うときもあった。

 加藤は1959年に書かれた「戦後思想の政治思想」を読み、吉本が安保に反対する理由が大勢とは隔絶していることに驚く。大勢は、「もっぱら、条約だけをぬきだしてきて、民族の自立か従属か、戦争か平和かの問題が、安保改訂反対の基礎にすえられている」。吉本はこの論点に対して、「民族」、「国家」の枠組みそのものが戦前と変わらないのであって、この枠組みそのものが駄目だとして、石原慎太郎、大江健三郎を退けている。では吉本はどこにいるのか。

 安保改訂を、国家独占が社会体制を維持し、発展させるために打つ政治的な布石のひとつであり、政治支配を永続化させようとする試みであるという理解はまれである。したがって、基本的人権や生活権と背反するような国家意思には従う必要はないというブルジョワ民主主義的な認識をもとに統一戦線が組まれるのではなく(この後に先の引用文が続く-引用者注)

 たしか、別のところで吉本は安保改訂が日本の資本主義に異議を唱える最後の機会だと判断したといことを書いていたが、ここでの文脈に添えば、国家独占が政治支配を永続化させようとすることに異を唱える場所にいたことになる。これは、民族の独立や戦争と平和といった議論の立て方とは異質であり、むしろ「ブルジョワ民主主義的な認識」の方が近い。

 加藤は、民族や国家といった枠組みの立て方ではなく、関係を通して見る、あるいは社会の「構成」を見るという見方を吉本は持っていた。そして、前者ではなく後者から見ることを徹底してきた。それがあまりに基本的なことのために、自分たちは吉本の異論の場所が見えなかったのではないか。加藤のいう発見とは吉本の立ち位置のことだった。

 ただし、加藤自身は「民族や国家」といった枠組みで観る見方にも一定のリアリティがあり、自分は吉本ではないから、後者のみではなく、民族や国家といった枠組みと社会構成の両方で見ていくつもりだと付け加えることを忘れなかった。

 実は今回の講演の主旨はこう述べられていた。

 吉本隆明の思想が、 先端と始原への同時的かつ両方向的な追尋の姿勢のうちに、戦後とどう関わりながら、3.11以後の世界を考えるうえで示唆的、原理的なひろがりをもっていたかを学び直したいと思っています。その学び直しの芽になるような思考のユニットを、戦後との関わり、転向、言語論を基本に、先端方向にハイ・イメージ 論、始原方向にアフリカ的段階、母型論を見る射程のひろがりで、辿ってみる心づもりです。(講師・記)

 加藤は恐縮しながらも、今日ここまで述べることはできなかったが、このことを考えるために大事な発見があったので、そのことに触れたとして講演を締めくくった。ぼくもいくつもの刺激を受け取ったが、柄谷、竹田の試みのなかには、先端と始原を二方向性をみる視点が含まれているが、これは剽窃ではなく、吉本の思想的営為の蓄積があって生まれてきたものだという理解に深い共感を覚えた。今後の加藤の思想展開が楽しみである。


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