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2010/03/14

『天秤の魔術師 アルキメデスの数学』

 斎藤憲の『よみがえる天才アルキメデス』を読んだとき、回転放物体の体積を求めるのに、どうしてこんな図が登場するのか不思議だったが、それは研究者にとっても同じだったようで、『アルキメデスの数学』の著者も、こんな天秤は見たことがないと実際に作って見せている。

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 高さと半径が同一の円柱と回転放物体があり、円柱の端を支点に、二つの物体は釣りさげられている。軸は円柱に貫かれて、回転放物体はその重心まで軸が伸びている。そんな図だ。この釣り合いから、回転放物体の体積が、半径と高さを同じくする円柱の体積の2分の1であることを証明するのだ。

 しかし、驚くのはまだ早く、注記を見ると、アルキメデスの頭のなかではこの天秤があったのではなく、回転放物体は軸に取り付けられている。それを図示してみる。

Archimedes_3

 アルキメデスの頭のなかにはこの図があった。そしてこれは研究者が読み解いたものだが、パピルスに書かれた図は実はたったこれだけのものだ。

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 ぼくたちが微積分で、円柱や回転放物体を無限に輪切りにしたイメージで理解を進めているが、それと同様のことを、微積分がない時代にアルキメデスはやっている。

 比例と正方形の大きさとその一辺を直径(半径)とする円の大きさの比は、長さを変えても共通でること、重心の求め方など、当時、分かっていたことだけをもとにアルキメデスは考える。回転放物体を無限に細かく輪切りにしたときのひとつの円を、回転放物体の重心の位置に置き、その円と同じ高さの位置にある円柱を細かく輪切りにしたときのひとつの円がその位置で釣り合う。言葉で書くと追えなくなるが、その無限小の釣り合いを繰り返すことで、この釣り合いを証明するのである。

 この証明は、『アルキメデスの数学』のほんの入り口に過ぎず、このあとにも証明は続き、研究者は素っ気ない定理の記述のなかから、アルキメデスがどう考えようとしたのかを明るみに出そうとしている。その過程はとても刺激的で、本書が「天秤の魔術師」、と銘打たれているが伝わってくる。

 ぼくたちは、安易に、

 V=1/2πr2(乗)h

 という公式で、回転放物体の体積を知っているつもりになり、それを微積分の考え方から導いている。

 しかし、微積分でそれが求められるということは、微積分がないと出来ないことを意味しないことを教えられる。山への登り方は様々にあるということ以上に、徒手空拳で自分の考え方で登るということ、その内在的なプロセスそのものが重要である。改めてそう感じさせてくれる本だ。

『天秤の魔術師 アルキメデスの数学』

Archimedesbook

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コメント

C写本を紹介していた著者の本ですね。
http://blog.goo.ne.jp/gooeichan/e/1fa92738745e8be83c1cc7df4023c1d3
アルキメデスの原理を習ったのは中学だったかな。あの浮力の。
今の時代にアルキメデスのクローンがいたらスゴイでしょうね。
鶴岡八幡宮の隠れ大銀杏は移植のほかにクローン化もするそうで。
微積分とはすっかり縁が切れたけど、高校のとき、微分方程式に初期値を与えて解くのは好きでした。
http://blog.goo.ne.jp/gooeichan/e/9672d5d691d3356ba4aeaae2a331bbb0

投稿: kayano | 2010/03/15 16:42

kayanoさん

浮力のエピソードの真相もこの本で迫っていました。

kayanoさん、地球科学を学ばれたんですね。
やってみたいなあと憧れた時期があります。

投稿: 喜山 | 2010/03/15 22:04

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