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2010/03/15

「『奄美』呼称の来歴とその周辺」

 町健次郎が、「『奄美』呼称の来歴とその周辺」のなかで引いている原田兎雄の考察は面白い。

 2・琉球の時代 ○原田兎雄「三位一体の神(下)」『南島研究』(第42号 南島研究会 2001年) 「大胆な言い方を許していただくなら、アマミキヨとシネリキヨの開闢神話は、もともと沖縄のものではなく、奄美大島の神話だったのではあるまいか。尚真によって、アマミキヨ神話と、アマミの地名とが、奄美大島から収奪されたのだと、私は推測している。アマミキヨが天降ったのは、奄美大島のアマミ嶽である。日本歴史で阿麻弥の名が出てくるのは、天武天皇11年(689・紀29)である。ところが琉球の歴史の中には、大島の地名はあっても奄美の地名はない。この単純明快な事実は、人為的にアマミの神話と地名が削除されたことを示しているのではないか。久米島も、八重山諸島も、尚真によって、その開闢神話が収奪されたはずである。」

 奄美の開闢神話が尚真によって収奪されたという可能性はありうると思う。共同体を支配するとき、支配共同体は在地の神話、民話を消去するよりは、それをわがものとして吸収し、支配共同体のものにしてかぶせてしまうという方法は、アジア的共同体の支配形態のものである。ただ、地名については疑問が残る。地名を収奪するには島人から言葉を奪わなくてはならないが、実質的にはそれはできないと思える。あるいは、大島を全体でひとつの島と認識した在地勢力のみにアマミの地名が語られ、それが収奪されたのならありうるのではないか。

 また、奄美という地名が、近代以降、いつ使われるようになったのかについても、町の資料から読み取ることができる。

O「「あまみ」といふ名」『奄美大島』(大正14年11月創刊号 奄美大島社)                          (『奄美大島縮刷版 上巻』1983 奄美社) 「「大島」といふ地名はところどころにあるので陸海軍をはじめ一般にわが大島をあまみ大島と呼ぶことがはやって来た、あまみといふ名は古いが一般に使われるようになったのは近来のことだ。斉明紀には「海見」、天武紀には「阿麻珊」と記してゐるが、「奄美」といふ文字は元明記から見江てゐる、阿摩弼姑(あまみこ)といふ女の神様が海見嶽(まみたけ)に天降つたといふのが大島開闢の傳説になってゐる、これが「あまみ」の名稱の起りだといふ。」

 「はやってきた」という説明は面白いが、近代国家を近代国家たらしめる条件のひとつであった国軍によって大島に「奄美」が冠されるようになったというのは必然の流れにまっすぐに沿っている。資料によれば、明治7年の海軍系資料に『大日本海岸実測図』に「大日本奄美大島海峡西部図」として「奄美」の表記が見られる。また、明治31年の『大日本帝国全図』にも「奄美大島」の表記が見られる。

 7世紀、南下した大和勢力によって「アマミ」と表記された奄美は、国学イデオロギーをもとに支配権を持った明治国家により再び見出され、他の大島との区別という要請から、近代初期に「奄美」と表記されるようになった。

 町の研究のおかげで、雲がひとつ取り払われる気分だ。


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コメント

神話の収奪なんて驚愕の説ですね。奄美に阿摩弼姑(あまみこ)神話があるんですか。
小生は単純に次のように想像してました。

喜界島の城久遺跡にあった物流拠点から琉球に物や技術がもたらされ、琉球は貝塚時代からグスク時代へと急激に発展したことは想像できます。琉球の人にとってはそれをもたらした者たちを奄美からきたのでアマミキヨという神として崇めたのではないかと思ってました。

原田 禹雄さんは、本来は医者で岡山にも、とても縁のある人です。
下記ブログに書いています。
http://blog.goo.ne.jp/gooeichan/e/ce0fa70099805112ec173bd55c182da7

投稿: kayano | 2010/03/16 00:42

kayanoさん


遅れました。アマミキヨなどの言葉は喜界の城久よりも時代がもっと遡ります。ぼくも北からの来訪者に向けた言葉ではないかと思っていますが、まだ確信が持てないですね。

投稿: 喜山 | 2010/03/31 22:50

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