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2010/01/21

「近代日本の地方統治と『島嶼』」10

 研究書は「注」も面白かったりするが、「近代日本の地方統治と『島嶼』」もそうだ。

 西村富明『奄美群島の近現代史-明治以降の奄美政策』(海風社一九九三年一〇頁)。その他同様の視角をもった研究書として、皆村武一『奄美近代経済社会論-黒砂糖と大島紬経済の展開-』(晃洋書房一九八八年)、杉原洋「開発と地域の自立-奄美群島と奄振-」(石川捷治・平井一臣編『地域から問う国家・社会・世界-「九州・沖縄」から何が見えるか-』、ナカニシヤ出版、二〇〇〇年)、喜山荘一『奄美自立論』(南方新社、二〇〇九年)などがある。
 筆者も本章で利用する史料から差別意識が介在したことを否定するものではないが、独立経済の一因となる明治一〇年代の勧業政策を分析することで、差別原因説だけで理解できないことを指摘したいと思う。(「近代日本の地方統治と『島嶼』」

 「差別原因説だけで理解できない」のは、ぼくもその通りだと思う。

 この点を敷衍して述べると、これまで明治期の地方自治を議論する際・中央対地方という側面からの議論が強かったと思う。だが、独立経済の議論で明らかになったように、地方(県)という空間も単一ではなく地域間格差を抱えた複雑な構造であったことがわかる。県レベルでの地方自治を考えたとき、大島郡予算の不足分を県の財政から補填して使用することと、大島郡の利益に合わないものへ大島郡の税金が使用されることは、表裏の関係にあった。大島郡への予算補填を批判する人たちは、大島郡の予算が他所へ流用されている事実を軽視し、大島郡の予算が流用されていることを問題にする人は、補填の事実を射程外に置くことになる。この二側面を無視して、一方のみ強調すると、予算をめぐる相互補完の関係という全体像の把握を困難にする。大島郡の税金は大島郡で使用するという政策は、自治に合致した行為かもしれないが、はたして、この政策は自治の精神にのみ照らして評価すべき問題なのか、という疑問に行き着く。

 「独立経済の議論で明らかになったように、地方(県)という空間も単一ではなく地域間格差を抱えた複雑な構造であったことがわかる」。この点は、奄美の困難を別の言い方で述べたものでもある。しかも、その単一でない複雑さか露顕する過剰さの一端は、日本の文化の主要な差異線のひとつがここに引かれていることに由来する。

 また、本章で使用した未見史料の歴史的価値が認められ、議論の起きたことは歓迎すべきだが、大島県の設置未遂に鹿児島本土の差別を嗅ぎ取るように差別に対し敏感に反応しているにもかかわらず、筆者が提起した独立経済指定をめぐり差別と地域振興の二面的解釈が存在したという指摘については、大島県ほど議論は起きていなかった。この点に関して、弓削政己氏は「初期明治政府の奄美島峡に対する政策について」で、筆者の論点を組み込んで、「県会、行政の名分は『差異』があっても、独立経済は『差別構造』の『打破』という側面では捉えられないのではないかという視点を有する」(六五頁)と、問題提起を行っている。

 たしかにぼくも「差別」に過敏に反応する嫌いはある。記憶がすぐに蘇ってくるからだ。それを背負った者からみると、「差別と地域振興の二面的解釈」の存在を指摘されて、理解はできても納得はできない心境に陥る。ここにいう地域振興も相当に追い詰められ、地域振興で突破するしかないものとして選択されたように見え、また他方では、ただの方便として言われただけにも見えるのだ。

さらに、喜山荘一氏がホームページ上で展開している「与論島クオリア」(http://manyu.cocolog-nifty.com/yunnu/)のなかで弓削氏の議論に触発されて「二重の疎外」という用語から独自の議論を展開している(与論島クオリア28、二〇〇八年一〇月五日)。喜山氏の「与論島クオリア」の議論は、整理された形で前掲『奄美自立論』に収録されている。また、弓削氏の問題提起を踏まえて筆者は、改めて差別と地域振興の二面性が独立経済の性格であるという「独立経済再考」を二〇〇九年一月に韓国で「韓日民衆史研究者ネットワーク形成のためのワークショップ」で報告した。ただし、この原稿は広く公開されたものではないので、大島県をめぐる昨今の議論も踏まえて、早い時点で筆者の考えをまとめて発表したいと考えている。

 ここでぼくは自分の名前が突然、出てきて驚いた。書きなぐりのようなブログの文章を研究書の注に載せられるのはとても恐縮するのだが、まともに取り上げてもらったことには感謝したい。

 「大島県をめぐる昨今の議論も踏まえて、早い時点で筆者の考えをまとめて発表したい」とある。早く読みたい。


 

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