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2009/11/21

『月桃夜』

 読み進むにつれて引き込まれ、一気に読み終えてしまった。遠田潤子の『月桃夜』である。

 兄と妹の物語に妹として苦悶し、なかば死を覚悟して海を漂う茉莉香(まりか)が、二百年前に、同じ兄と妹の物語に、兄として苦悶し、いまは鷲として空を飛びながら、「この世の終わり」で妹との再会を待っているフィエクサの話を聞いて、生の世界へ帰還するまでの、これは小説だ。

 茉莉香はわざとパドルを海に放ち、カヤックを漂流させ、死か生かの裁きを受けようとするのだが、そこでマブリ(魂)が抜けかかっている状態なので、鷲と話すことができる。鷲もまた生と死のあいだを彷徨っている存在だからだ。

 その舞台が奄美大島の海だというのは、最適だと思う。奄美もまた、どちらでもありどちらでもない、というあわいの歴史と地理を生きてきた島だからである。この、生と死のあわいの世界を奄美に見たとき、遠田は奄美の世界を内在的に描く鍵を手にしたのだと思う。現に、歴史も民俗も、『月桃夜』は、ぼくたちに身近なところまで迫ってくる。たとえばそれは、

 「アンマの手にはきれいな模様があった。それで、機を織っていた」
 「針突(ハヅキ)か」

 と、「針突(ハヅキ)」を憧れとして、島の民俗の内側から描いている点などに現れている。ぼくたちは奄美の物語としてこの作品を読むことができるだろう。もちろん、史実へのアプローチや、たとえば、山の神が西洋の女神に思えてしまうようなところなど欲を言いたくなった箇所もあった。しかしそれは贅沢というものだろう。奄美ならではの舞台設定で奄美を感じさせてくれる作品にまずは感謝したい。

 途中まで読んで眠りについたが、夜中目が覚め、眠れそうになかったので続きを読みだしたら、終わるまでやめることができなかった。『月桃夜』は深夜に向いている。


   『月桃夜』

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コメント

いつも読むのが早いですね。
楽天ブックスに注文して先ほど届き、これから読むところです。
最近は、小説は内田康夫の浅見光彦シリーズしか読んでません。
浅見は、「黄金の石橋」で鹿児島まで行っているのですが、奄美にはまだ行っていません。
「ユタが愛した探偵」で沖縄県までは行っているのに。
愛媛県は内田に400万円出して「しまなみ幻想」を書いてもらいましたが、経済効果はあったのかな。

投稿: kayano | 2009/11/23 14:41

kayanoさん

> いつも読むのが早いですね。

地元の物語に飢えてるんだと思います(苦笑)。

しかし、よ、四百万、ですか。それは豪勢です。
浅田光彦が奄美に来る日。楽しみができました。

投稿: 喜山 | 2009/11/24 22:32

海の話(現在)と島の話(過去)を交互に織り交ぜ時空を超えて描いた悲恋物語、、、もし映画化されたら、こんな臭いキャプションが付きそうな予感がします、上鹿への先導役が期待された薩摩の役人を殺してしまう転換点が私にとってこの小説のクライマックスでした、八月踊りの時期に山へ逃げ入る恐怖と緊張感を想像しながら読み進めていて、サネンはムシに打たれて死んでしまうのではないかと勝手に予想していました、山の神をノロ(カミンチュ)に変えて登場させた方が良かったかな、本を読みながらフィエクサは林遣都、サネンは美少女(女優に疎い)、アジャは苅谷俊介、薩摩役人は沢村一樹、特にお気に入りのキャラ主取の岩樽は山口智充(ぐっさん)とキャスティングを妄想し、監督は山田洋次で出来れば申し分ありません、

何れにせよ遠田潤子さんには奄美の歴史を扱った作品を続けて書いて頂きたいですね、幕末から明治にかけての衆達が没落していく物語とか、那覇世の琉球との抗争を描いた物語を期待したいです。

投稿: 伊喜与穂之兵屋 | 2009/11/26 14:51

またやってしまいました
読み始めると止まらない
夜更けが迫るなか、ぞくぞくしながら読み終えました。


今まで、喜山さんがここで書かれていたことや熱い感情が、なかなか理解できませんでした。今もわかっちゃいないとは思いますが、ふたりの兄妹の溢れんばかりの想いが苦しい程流れこんできて、少し感じられたような気がしました。言葉は想像力をかきたてるから、しばらくわたしの想像の中の島は消えそうにありません。

現在、奄美の方々がどれほどの感情を抱いているのかわかりませんが、ただの歴史や過去として片づけられるものではないのだと思いました。
もしも、自分がそこにいたら・・・島に生まれていたら、一体どのように世界を見ることになっていたのかなと思いました。

投稿: kemo | 2009/11/28 14:41

kemoさん

遅くなってごめんなさい。

なんでこんなに怒ってるんだろう、何度もなんども同じテーマを繰り返して、とふつうは思いますよ。このブログも。

小説作品は、入りやすくさせてくれるからいいですよね。

投稿: 喜山 | 2009/12/03 21:30

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