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2009/11/28

「薩摩侵攻400年にあたっての児童・生徒用副読本の必要性について」

 「奄美侵攻400年で副読本」について、森本さんが奄美市教育委員会の趣意書を送ってくださった。このところ、島のみなさんのお世話になりっぱなしである。

「薩摩侵攻400年にあたっての児童・生徒用副読本の必要性について」
  (平成21年11月26日奄美群島広域事務組合 教育長 徳永昭雄)

 過去、旧大島教育事務局を中心に、郷土の先人の顕彰を行うため、「先人に学ぶ」5巻を発行し、その生き方を群島内の児童・生徒に副読本として配布しました。
 名瀬市誌(上)第5章には「島津氏の琉球入りと奄美」の項を設け、薩摩世の状況を記載していますが、迫害・被虐の記述が児童・生徒用こは、いささか判りにくい嫌いがあります。
 多くの子どもたちは、高校を卒業すると、一度は島を離れ、都会で暮らします。しか.しながら、奄美の子どもたちは親世代から薩摩に虐げられてきたことを教わっても、「奄美の黒糖製造」の歴史が、近世において又、明治維新において、財政的に大きな役割を果たしたことを教えられていません。
 島で生れ育ったアイデンティティの確立と、誇りを奄美地域の歴史を語れる子どもたちの育成を図る上からも、近世において、奄美地域が薩摩藩にそして近代日本発展に果たした役割を、子どもたちに伝えておくことは極めて肝要なことと思量します。

 そのための副読本を作成することは、一地域の歴史と言うことで、鹿児島県当局は作製について消極的と思いますが、薩摩侵攻400年を契機として、奄美群島広域事務組合で発行することは意義ある事業であると考えます。
 おりしも、民間団体から、子どもたちに奄美の歴史を教えていただきたい旨の陳情書が提出され、県議会においては、継続審議となりましたが、奄美地域の多くの議会において採択されています。
 また、沖縄県教育委員会は、沖縄県の歴史を県内の小・中・高校生に伝えるため、数多くの副読本の提供を行っています。
 各市町村におきましては予算面において、厳しい環境にあることは、承知していますが、奄美の子どもたちが将来において誇りを持って、生きていくうえでの教育資産として副読本の発行を切望するものであります。

 「島津氏の琉球入りと奄美」は、「児童・生徒」に「いささか判りにくい嫌い」があるだけではない。大人にとっても判りにくい。与論出身のぼくにとってもそうなのだから、本土の人にはなおのことそうだろう。ここにある判りにくさは、それこそが奄美的なものでもあるのだが、奄美の困難を近代ナショナリズムによって強引に解釈し、そこで薩摩・鹿児島を優性に立てるところに由来している。別の言い方をすれば、出自にまつわる個人的煩悶を普遍化しえていないために、書き手の一族の救抜にしかなっていない。読み手は書き手の煩悶を通じて、奄美的困難の一端を知るという迂回路を強いられる。 これが「名瀬市誌」の過去であるだけでなく、現在なのだ。

 ここに、奄美の歴史副読本を誰が書くのかという課題が顔を出す。奄美の歴史の扉はいまだに内側からしか開かない。それなのに外側から鍵をかけられて閉じ込められてきた。ぼくたちは言葉にならない叫びをあげるか、裏声で痛切に歌いあげるしかない。それは内側からしか開かないのに、外に委ねてきたからだ。

 厳密にいえば、書き手は奄美の人でなければならないわけでは必ずしもない。奄美外の書き手であっても、柳田國男や島尾敏雄がそうであったように、奄美の内側からの視線を保持できるなら可能だろう。しかしこれまではそんな書き手は得られなかった。ために、奄美の人が書いたとしても、外側からの視線を内面化した記述になってしまったのである。それが、「島津氏の琉球入りと奄美」の無残さでもある。擬態していたらそのまま植物になってしまったようなものだ。いやしかしこれは擬態する虫たちに失礼というものだろう。虫は擬態していても、自分が虫であることを忘れず植物だと思い込むことはないからである。

 奄美には歴史の専門家が不足している。それは確かにそうだだろう。だからといってこれまでのように外側に委ねたら同じ轍を踏むのが落ちである。外側の権威に奄美への配慮を求めるより、お粗末でも自分たちで記述すべきではないのか。現に、外側からの配慮はこの半世紀にも得られなかったことが、その期待の無効さを物語っているではないか。それよりは、奄美発のものを書き、薩摩や鹿児島にどんな配慮を示せるかを問うべきである。それが真っ当な努力というものだ。そろそろ原口虎雄の抑圧を克服すべきときだ。それは、侵略の400年を克服するぼくたちの課題である。そうして初めて、冷静になれているか、史実を根拠にしているかという問いに向き合う土俵に立てる。


奄美郷土読本(歴史編)の作成について
                                   H21.11.25
                            奄美市教育委員会

1 日的
 奄美の歴史について丸ごと学ぶことをとおして先人の生き方にふれ、奄美で生まれ育ったアイデンティティーを確立し,誇りを持って奄美の歴史を諸ることのできる生徒の育成を図る。

2 対象
  中学生

3 利用方法及び作成冊数
(1)社会科の歴史学習の補助資料あるいは,自主学習の参考資料とする。
(2)当番中学校の1学年分(便宜上H23.5.1の第1学年の人数)を配布し,学校保管とする。
(3)2,100冊{上記(2)及び予備(学校・市町村教委・事務局)}

4 奄美郷土読本(歴史編)の主な内容
(1)歴史編
 ① わたしたちの奄美
 ① 中世までの奄美
 ③ 琉球統治の時代
 ④ 薩摩統治の時代
 ⑤ 近代の奄美
 ⑥ アメリカ統治時代
 ⑦ 日本復帰、そして、現在

5 作成スケジュール

平成21年度 基本構想作成
平成22年度 執筆者会議(年3回)
平成23年度 編集委員会(年3回)
平成24年度 使用開始

6 執筆者及び編集委員
(1)執筆者 5名(学識経験者・歴史研究者等から選考)
(2)編集委員14名(小・中学校の社会科を研究する教員をもって充てる。原則として各市町村から1名とする。)

7 諸経費
 4,000,000円
【内訳】
(1)執筆者関係(執筆者委員会3回) 165,000円
(2)編集委員関係(編集委員会3回) 588,480円
(3)印刷費関係             3,150,000円
(4)予備費等               96,520円

 経費400万は、315万の印刷費が馬鹿にならない。待望の企画なのだから、ひろく奄美出身者や奄美に心を寄せる人々へ寄付を募ったらどうだろう。そして執筆者や編集委員の労に報いるものが多くなるようにできたらいいと思う。


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コメント

せっかくの機会ですから…奄美郷友会の方々にも参加や協力をいて戴きたいですね

投稿: 海星 | 2009/11/29 23:40

海星さま

遅くなりました。

ええそうですね。多くの方を巻き込んだらいいと思います。

投稿: 喜山 | 2009/12/03 21:31

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