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2009/08/28

『月桃夜』選評にみる「奄美」

 遠田潤子の「月桃夜」の日本ファンタジーノベル大賞受賞はとても嬉しい知らせだったが、新潮社のサイトにその選評が載っている。

 第二十一回日本ファンタジーノベル大賞 選評

 作品の中身ではなく、選考委員たちに奄美がどう捉えられているかを見たい。


 荒俣宏

ストレートなロマンに分類した『月桃夜』は、ひさびさに重厚な奇談であり、これまでまともに取り上げられなかった奄美大島の歴史と人倫を興味ぶかく語りつくす。奄美の歴史は、運命の隙間を泳ぎ渡るしたたかさを持っていた沖縄と異なり、一方的な屈従の連続だった。そのなかで愛が成就されるとしたら、どういう苦闘が生じるかを、説得力ある筆で描く。

 「これまでまともに取り上げられなかった奄美大島の歴史と人倫」というのは博学の賜物だろうか。したたかな沖縄と一方的な屈従の連続の奄美という対比も的確だ。「したたかさ」には、奄美以上の規模と本土からの距離が寄与しているのではあるが。


 井上ひさし

 評者にはという注釈がつくが、今回の白眉は、『月桃夜』(遠田潤子)だった。奄美大島のはるか沖合を、カヤックで漂流する女性の前に大鷲が現われて、いきなりこう口をきく、「俺には屍肉を喰らう趣味はない」と。なんと大胆で巧みな導入だろう。大鷲が語るのは、二百年前の奄美の悲惨な階級社会であり、最下層の少年奴隷の苛酷な毎日である。その少年が一人の少女を守りながら、他人と自分を愛することを発見し、たまたま習った囲碁を唯一の武器に、この階級社会を一気に駆け登ろうとする。いたるところ名文句で飾られた文章は歯切れよく、律動的に物語を展開してゆく。もちろんその底に膨大な勉強量が隠されているのだが、なによりも、漂流の一夜と、「この世のおわりにまた会おう」という気が遠くなりそうな未来を、一編のうちに結びつけた雄大な構想がすばらしい。これこそ値打ち物の小説だ。

 「二百年前の奄美の悲惨な階級社会であり、最下層の少年奴隷の苛酷な毎日」とうのは、評者の認識というより作品の要約として書いていると思える。


 小谷真理

ひときわぬきんでていたのは、遠田潤子『月桃夜』。なんといっても大きな魅力は、江戸末期、薩摩の圧政に苦しむ奄美大島のライフスタイルが生々しく書かれていること。禁断の恋愛小説としても読み応え充分。兄妹の愛情関係は、現代の少女マンガの蓄積をすら凌駕するかなり緻密な掘り下げ方で、圧倒的。本当の兄妹ではないので、なにをそこまで気にするのだろう、と読者は思うかもしれないが、その思いこみこそ、彼らを奄美の階級制に縛り付けているものと同等であるから、むしろ重要なのである。奄美由来の兄妹婚姻に関するフォークロアの奥深さを浮かびあがらせる配慮にも、感嘆した。

 「薩摩の圧政に苦しむ奄美大島のライフスタイル」も、作品から汲み取られたものだ。


 椎名誠

『月桃夜』は二百年前の奄美大島を舞台にした堂々たる幻想的歴史小説である。ぼくの知っているかぎり、これまでこれほど綿密にこの島を舞台にして小説が語られたことはなかったように思う。作者はてっきり奄美の人かと思ったがそうではないらしい。
 琉球(沖縄)と薩摩(九州)に挟まれて奄美は存在感の薄い島だった。文化が曖昧だった。どちらかというとおとなしく暗いイメージもあった。この小説が世にでることによって、奄美のあたらしい別な魅力がひらかれればいいな、と思う。
 椎名誠にいたって、作品評を離れ、奄美に言葉が届けられている。「存在感の薄い」「どちらかというとおとなしく暗い」奄美に「あたらしい別な魅力が」ひらかれますように。


 鈴木光司

カヤックで奄美の海に漕ぎ出した現代の少女に、鷲が、過去の物語を語り始める『月桃夜』の冒頭部分は、詩的で美しく、目に浮かぶ情景は印象的だ。江戸時代、薩摩藩から弾圧された奄美大島を舞台に繰り広げられる兄妹の悲劇と、現在との関わりが明確になれば、さらに完成度は増す。

 これも作品評。「現在との関わり」は別の意味でぼくたちが気にしているところだ。


 荒俣さん、椎名さんの奄美認識(奄美に対して認識があるということ)が、嬉しいですね。


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コメント

選評がどれも好意的ですね。
荒俣、椎名両氏は沖縄に何度も通って沖縄をよく知っているので奄美との違いも感覚的にも認識できるのでしょうね。
荒俣は風水学、椎名はキャンプや映画撮影で沖縄を知り尽くしているのかな。

沖縄関連本はよく出ますね。今、読んでいるのが奥野修司の「沖縄幻想」(洋泉社、2009年7月発行)。下記に。

http://blog.goo.ne.jp/gooeichan/e/6daa94c9c34431d31e9b4ed1dc3246b5

投稿: kayano | 2009/08/29 09:53

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