« 『東西/南北考―いくつもの日本へ』 | トップページ | 「沖永良部で薩摩侵攻400年シンポ」 »

2009/05/23

「一六〇九年問題を考察」

 南海日日新聞に『奄美自立論』の書評が載っていると教えてもらった。とても丁寧な紹介で恐縮する。せっかくなので読んでください。

 最後のところ、南島の人々は、論理的思考が苦手なのではなく、論理を言葉と自然のなかに溶解させているのが南島なのだと思っている。


一六〇九年問題を考察 喜山荘一著「奄美自立論」
                                 仲川文子

 これ程、多くの文献を参照し、多方面から一六〇九年問題を検証、考察した著書は、他に類をみないのではないだろうか。
 「奄美は琉球でもない、大和でもない」とその出自を正面切って論じ、そして奄美の自立への道を強く促している喜山荘一著「奄美自立論(南方新社刊)。
-四百年の失語を越えて-と副題にあるように、薩摩が琉球侵略をして四百年が経った今年、二重の疎外からの脱却をどのように島人は進めてきたか。また、これからどのように歩めばよいのか。それらが緻密な思考を伴って著されている。

 もくじは、第一章から第七章に区分され、「二重の疎外とその克服として見た奄美の歩み」と超して、一六〇九(慶長十四)年、薩摩、琉球侵略にはじまり、二〇〇二(平成十四)年、元ちとせ「ハイヌミカゼ」、山中貞則「顧みて悔いなし 私の履歴書」までを年代別に記載。起きた出来事や書籍等が配されていて時代の流れを感じさせる。

 「第一章 二重の疎外-奄美は琉球ではない、大和でもない」の冒頭、与論島出身の喜山氏は、奄美のことをほとんど知ることなく育ったこと、学校や家庭や他の場でも奄美のことを教わる機会がなかったことを述べ、島尾敏雄のエッセイ「九年目の島の春」(一九六四年)を引用している。
 その中で、島は沈黙が支配していると思われたこと。見えない信号を出していることなどを読みとり、奄美の失語は歴史的なもので、四百年の失語と喜山氏は捉える。さらにこの項では、伊波普猷の「孤島苦の琉球史」を引き、薩摩に支配された後の島人々は、日本人の風貌にすることを禁止されたこと、奄美に関して言えば、別の文献から名字を大和風にすることを禁じ、一字名字にすることで「大和ではない」とする規定を強いたことが記されている。

 このようにして奄美は、「琉球でもない、大和でもない」という二重の疎外を強いられ知られざる受難の民としての奄美の宿命が明瞭に刻印されたと語っている。また、山之口獏の詩「会話」を示し、沖縄出身者である山之口は東京での暮らしの中で好奇心と差別の餌食になりたくなくて国のことを言えず口ごもり、失語していると論じている。このことは 当時の奄美・沖縄の出身者の多くが体験したことではないだろうか。

 第二章 黒糖収奪とは何か-空っぽなモノの絶対化と食糧自給力の収奪。第三章 なぜ、薩摩は奄美を直接支配したのか。第四章 近代化三幕-二重の疎外の顕在化と抵抗。第五章 日本人になる-二重の疎外からの脱出。第八章 奄美とは何か-秘する花のように。第七章 二重の疎外の克服へ。このように、各章で具体的な事例をあげ、参考となる歴史を繙き島の人々が何を、どのように考え行動してきたか、緻密に考察を重ねていることが、本書の特徴だろう。第五章 日本人になるの項では、大山麟五郎の「海の神と粟のアンマ」の一文を紹介、さらに「敗戦」や「島」という詩を書いた泉芳朗を取り上げ、米軍統治下の奄美にも言及している。

 「一六〇九年のことは“今”につながることとして切実であり、ぼくたちは四〇〇年の時間を深呼吸することができるのです。それをここでは、奄美の豊かさとして受け取りたいと考えてきました。しかしほんとうは、四〇〇年どころではない、数千年から万年を呼吸できるのが、奄美のすごさであり、それがシマ/島を連綿と生きさせてきた力ではないでしょうか」。これはあとがきに著された喜山氏の総括として印象深い文章だった。
 論理的思考の不得手な私たち南島の人々に多くの共感と説得力を与えるような気がした。そして、この本は私たちに歴史をもう一度見つめ直し、これからの島の生き方を考えるよすがとなることだろう。

|

« 『東西/南北考―いくつもの日本へ』 | トップページ | 「沖永良部で薩摩侵攻400年シンポ」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87956/45101847

この記事へのトラックバック一覧です: 「一六〇九年問題を考察」:

« 『東西/南北考―いくつもの日本へ』 | トップページ | 「沖永良部で薩摩侵攻400年シンポ」 »