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2008/12/07

奄美とは何か 1

 奄美とは何か。ぼくたちはそう問わずにいられません。

 しかし、二重の疎外を受け、空虚と化した島々にどんな価値があるというのでしょう。そう思ってしまうときは、もし奄美が無かったらと問うてみます。

 もしも奄美がなかったなら、薩摩は植民地を持つことはできず、従って、明治維新を起こすことなど、到底おぼつかなかったでしょう。その前に、朝鮮出兵の兵力を提供できず、秀吉とさらにひと悶着あったかもしれません。いやもっとその前に奄美がなかったなら、南北二〇〇キロに伸びる「道之島」が存在しなかったら、北からの南下は本州島に止まり、南からの北上は沖縄島に止まり、三母音文化は本土へ移らなかったかもしれません。大和勢力も、沖縄島以南とは無縁だったかもしれません。

 すると、日本はもっと平坦な顔つきの人の多い、もっと平板な歴史と文化になっていたのではないでしょうか。そう考えれば、奄美は、日本の多様性と近代化の無言の立役者なのです。

 と、気を取り直します。ふたたび、奄美とは何か。

 奄美は、琉球弧の北に浮かぶ、高い島から低い島までの連なり、「ガラパゴス」から「真珠」までの振幅です。「東洋のガラパゴス」と謳われ、あまたの固有種を擁する森から、「東洋の真珠」と呼ばれる珊瑚礁の白砂までの、両極の亜熱帯。この振幅のあいだに琉球弧の主たる要素は出尽くし、それはさらに南の方へゆるやかなカーブを描き、反復されます。

 北琉球弧の奄美は、大和との交流手となって歴史を歩み、「孤立の連帯」(島尾敏雄「奄美・その孤独な広がり」一九七〇年)のなか、一同であること以外、共通性を持たないかのように、それぞれの島を世界としてきました。

 けれど、遠くにゆくまい、ゆるりとあろうとする、ゆるやかなマブイ(魂)のありようを共有してきた奄美は、いちばん最後に歴史と地理に顔を出す、懐かしき島々です。

 ぼくたちは奄美とは何かという問いに答えようとすると、北から南、高さから低さへの幅をなぞるような内容になってしまいます。それは、奄美を貫徹する本質がすぐには見つからないからです。そして幅で答えたとしても満足できないのは、その幅は琉球弧の一部であることを言うに過ぎず、奄美としての独自性ではないように感じられるからです。

 奄美とは何か。喜界島から与論島にいたる奄美の島々に共通し、かつ沖縄にも鹿児島にもないものを括りだすとしたら、二重の疎外の共同体だということに改めて突き当ります。ぼくたちはやはり、二重の疎外から始めるしかありません。

 二重の疎外から始めるということは、二重の疎外を、そのもとで生きる奄美の所与の条件と見なすことです。
そう見なすと、奄美とは琉球と大和との交流拠点であると素描することができます。

 琉球か大和か、それが問われる場面では、奄美はどちらにするのか、まるで二者択一の選択肢として現れるので、自分は誰であるか、自任の感覚は浮遊せざるをえません。その浮遊感は、自信の無さに結びついたり、失語をくるんだ優しさとして表出されたりしてきました。

 奄美とは何か。それは、琉球と大和の二重意識のことです。
 奄美は、亜熱帯ヤポネシアの北部に位置し、高島から低島への幅と、森から珊瑚礁までの幅を持っています。そしてその幅は、中南部琉球弧へと反復されます。そして、この振幅のグラデーションは、意識のなかでは、琉球と大和の二重意識の濃淡として表出されてきました。この二重意識は、大和にもない琉球にもない奄美固有のスタイルをなしています。

 奄美は、この二重意識を形成しながら、琉球と大和の交流拠点を担ってきました。
 そういう意味では、奄美はまるで珊瑚礁です。珊瑚礁は海でもあれば陸でもあります。珊瑚礁は海であり、珊瑚と魚たちを育みます。また、珊瑚礁は陸であり、海の畑として幸を提供します。珊瑚礁は、海でもあれば陸でもあることによって、海と陸とをやわらかにつなぐのです。

 奄美は琉球でもあれば大和でもあります。

 奄美は琉球であり、人類の初源の世界観を今に伝えます。奄美は大和であり、大和の歴史を縁の下で支えました。奄美は、琉球でもあれば大和でもあることによって、琉球と大和の交流拠点を担ってきたのです。

 奄美には珊瑚礁があります。奄美の島人は、その珊瑚礁を見つめながらそのあり方に学び、珊瑚礁として生きてきました。

 奄美とは珊瑚礁なのです。


「奄美自立論」40-1

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