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2008/12/01

敗戦を通過していない 2

 島の暦

右を見ても島
左を見ても島
きのうも あさっても
おなじところを向いて暮らしている島

頭上にはぼろざれみたいな冬空一張り
絶ちきられた海のはてにつくる

六年の 空白の座
もろもろの思いや願いを拒みつくして
ながい歴史の日ぐれがつずく……
あゝ
おんなたちは町の片隅で紬を織り
おとこたちは村の暗がりで黒砂糖をたき
あるいは おろおろとちまたにあぶれ
右を見 左を見
舌うちしたり背のびしたりして
おのおのかなしいしぐさを くりかえし
そして おとといのしびれのうえに
きょうのしびれを さらして
日日の 島の暦が閉じられる。
(一九五二年一月)

 もうこの詩では、三年前の「島」に見られたような力強さは感じられません。「六年の 空白の座」とは、米軍統治下に入った歳月を指しますがその歳月の疲労を感じさせます。そこで、「右を見 左を見」という挙動不審の様や「しびれ」をもたらしていると泉は書くのですが、やはり、「右を向いても左を見ても」という振る舞いは奄美的な表象です。しかしここに立ち止まるなら、それは「奄美は日本ではない」という規定からやってきたものという以上に、「奄美は琉球ではない、大和でもない」という二重の疎外がその根底にはあると捉えることができたなら、奄美の日本復帰問題はもっと別様に展開する可能性を持ったはずでした。

 旗を振る

奄美の子らは旗を振る
八年のあいだ胸底にひそめていた日の丸だ
古だんすの底にしまいこんであった日の丸だ
戦死した夫の遺留品といっしょにかえってきた寄せ書の日の丸だ
手垢のついた
ぼろぼろ虫ざれのついた
空襲の壕の中の泥水をそめた
せつないかなしいおもいのにじんだ
ひとつひとつのこころをもった
さまざまの日の丸だ

奄美の子らは日の丸をとりもどした
泣き挫き胸の中で振ってきた日の丸
ぼくが生まれたとき
おかあさんがそっとにぎらせてくれた日の丸
あれからもう八年
奄美はやっと日の丸の国にもどったのだ
晴れた島の秋
燃え上がる日の丸
奄美の子らは旗を振る
(一九五三年)

 泉の詩は、「奄美は日本ではない」という状況の意味を根底的に捉えきれていませんが、しかし、復帰を切望する詩を読むと、問題はもっと別のところにあるように思えてきます。ぼくは意地悪で言うわけではありませんが、「旗を振る」の詩は、どうしても「しっぽを振る」というように見えてしまいます。しっぽを振っているのは、「奄美の子ら」ではなく、この詩の書き手のほうです。

 吉本は高村光太郎の「一億の号泣」のなかに、希望的な言葉があるのに躓きましたが、ぼくはこの復帰を迎える年に書かれた「旗を振る」の詩に躓きます。それは、ここにある「日の丸」の無垢さです。「八年のあいだ胸底にひそめていた日の丸だ 古だんすの底にしまいこんであった日の丸だ」と泉は書くのですが、ここにいう「日の丸」とは、日本人としての意識です。いやもっといえば、「八年のあいだ胸底にひそめていた」「古だんすの底にしまいこんであった」それは、まるで戦前の皇国民のまま、保存されていたかのように見えるのです。

 日本は敗戦とともに、「日の丸」を無垢なものとしては見れなくなります。それはもう無垢ではない。それが敗戦の意味であり、その挫折の深さの現われでした。そうであればこそ、そこで希望的な言葉を書けた高村に、吉本は違和感を覚えたのです。しかし、泉にとって「日の丸」は無垢なままです。いやこれこそは、泉だけではない奄美の実感だったのではないでしょうか。奄美は、戦後、米軍統治下に入り、「奄美は日本ではない」という規定を受けたため、「日本人になる」ことが至上命題になり、そのとき日本が直面した敗戦を通過していない。いやもちろん事実としては通過していますが、敗戦の意味を受け取っていないように思えるのです。

 そうやってみると、『大奄美史』の昇曙夢の筆致も理解することができます。ぼくたちは、あの一九二七(昭和二)年の天皇の行幸について書いた昇の文章をなんとなく戦前に書かれたものとして読んでいないでしょうか。しかし、『大奄美史』が発刊されたのは一九四九(昭和二六)年の戦後です。戦時中に書かれたものだからということで言えば、天皇の行幸を「皇恩のかたじけなさ」とする表現にもある納得は得られますが、それが戦後にほぼ内省を加えることなく、つまり何の手も加えられた形跡のないまま発刊されたのだと思えます。昇と泉は同じ精神性を共有していたと思えますが、同時にそれは、奄美が敗戦を通過していないことを意味しているのではないでしょうか。

 奄美は二〇〇三(平成一五)年、復帰五〇周年に天皇を奄美に招待します。奄美は天皇に対してもまた、敗戦を通過していないのです。

「奄美自立論」35-2

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