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2008/12/23

「奄美」づくり 1

 「隠」を解く。「秘」を生かす。もうひとつは、「花を見つける」ことです。

 「花を見つける」のは、奄美の自己像をつくることに他なりません。奄美づくりです。

 現在、奄美づくりを考える上で避けられないのは、あの、奄振でしょう。

 現状の奄振は、「格差を克服するには至らなかった」という結論をまるで常套句のように採用して延長につぐ延長を続けています。また、よく知られているように、投じられる事業費を請け負う材料や事業者を域外に依存するため奄美に資金が流入していません。たとえば、皆(みな)村武(むらたけ)一(いち)の『戦後奄美経済社会論』によれば、一九九四年度から一九九八年度までの期間でみると、その八〇%が域外に還流していました。また、その中身は公共事業、なかでも土木建設費が大きくなっています。

 ぼくは、大型船が接岸できる港ができ、道路が舗装され、空港ができるなどの島の光景が変わる出来事が自分のおいたちに重なるように思い出されますが、その多くに奄振が関わっていることに驚かされます。それは確かに、奄美が生きていく力を強くしてくれたと実感できますが、一方で、小さな島嶼には不釣合いな巨大な土木建設力を擁しており、島の至る所でいつも工事が行われているのを見ると、空恐ろしくもなってきます。

 皆村は、投資の所得への効果は「ザルと同じようにすぐ漏れてなくなってしまう」と指摘し、それは「港や道路、空港などの施設を本土で完成して、それを運んで奄美に設置するのとほとんど変わらない」と批判しています。皆村は本で読む限りとても真面目な人だと思うのですが、この批判は、四コマ漫画になるユーモアがあります。一コマ目は、橋をつくる工事の絵、ふたコマ目は、完成した橋と完成に喜ぶ作業者の姿。三コマ目は、「まだ終わってない、これからが仕事だ」という上から下りてくる命令の声と驚く作業者の表情。そして四コマ目が、奄美の島へ船で橋を運ぶ絵、です。こんな劇画化を許すほど抜けが多いのだと皆村は言うかのようです。

 また、奄美を含めた琉球の自治運動を展開している松島泰勝は、「開発の結果、経済自立は達成されず、自然が破壊され、文化が衰退し、従属度が一段と深まった。公共投資は収益をもたらさず、消費と生産の連関度も弱く、資本蓄積も進まなかった」(『琉球の「自治」』二〇〇六年)と考えられる限りの問題点を挙げて、奄美も沖縄も「『日本復帰』後の大転換は、琉球弧の島々における開発行政が失敗した時代」であると総括しています。
奄振を奄美の島人はどう評価しているのでしょうか。

 奄美、県で構成する企画調整会議は、二〇〇七(平成一七)年に、奄振関連のアンケート調査を行っています。それによると、奄美在住者の八四%は、「今後とも国の特別措置法が必要」と回答しています。高い比率で奄振は必要だと思われています。

 アンケート結果の中身をみると、一〇年前に比べた島のイメージについて、在住者、出身者の六一%が「良くなった」(「大変良くなった」一六・五%、「いくらかは良くなった」四四・八%)と評価しています。しかし、奄美が果たす役割について、在住者と出身者の五九%が「貴重な動植物など豊かな自然環境の保全」を挙げているのが特徴的です。島のイメージは良くなったけれど、天然自然を破壊したくないという思いが素直に表れています。

 ただ、「島のイメージ」は、奄振の結果よくなったと思うかと聞いているわけではないのにアンケート分析は「奄美群島振興開発事業の評価と期待」と見出しを立てて、島のイメージはよくなった」と評価しているのは、奄振の結果良くなったと評価しているような印象を与える作為になりかねません。

 また、奄振の必要性に関する選択肢とそれぞれの回答率はこのようになっています。

 1.奄美群島の自律的発展のためには、地域の努力に加えて、まだ国の特別措置が必要である
 四〇・六%
 2.他の地域に比べ多くの面で格差があり、今後とも国の特別措置が必要である
 二八・七%
 3.歴史的にも特別の経緯を持つ地域であり、今後とも国の特別措置が必要である
 一五・〇%
 4.今後は、地域の問題として取り組むべきであり、国の特別措置はもう必要ない
 三・五%
 5.奄美群島の振興のためになっていないので、やめるべきである    
 一・一%
 6.その他・わからない・無回答                  
 一一・一% 

 この選択肢は、奄振は必要であるという回答を導くための作為がありありと感じられ適切ではなく、奄振を必要だとする「八四%」を信頼性ある民意として使うことはできないと思えます。

 まず、「必要である」とする選択肢のみで三つあり、しかもそれぞれの意味の相違が明解でも排他的でもありません。必要の有無をめぐる理由を選択肢のなかで挙げるとすれば、事前に島人の声を網羅的に反映すべきですが、それにしては抽象的な表現です。また、「わからない」という選択肢は他と同等に尊重すべきです。奄美の将来を決めるための重要な調査で、こうした奄振存続への誘導が見える作為を加えるべきではないでしょう。

 ところで、奄振の目的になっている格差解消は、復帰直後のエンゲル係数が八二・七%という絶対的な貧困下では重要な指標です。しかし奄美も絶対的な貧困からは脱しています。この段階では、「格差」の指標になっている「所得」も指標として相対化する必要があります。都市部は生活コストの高く、差が生じるのは必定で、「所得」を指標にする限り、「格差」はアキレスと亀のように永遠に追い付けないテーマとならざるをえません。すると、「格差を克服するには至らなかった」という常套句は、奄振永続化のレトリックならともかく、奄美の自立を見えなくさせてしまいかねません。

 たとえば、家計支出の中身を、食費や住宅費のように生活に必需な基礎的支出と外食や塾などのように使うかどうかを選べる選択的支出に分け、「選択的支出」が「基礎的支出」に対して、どれだけ大きくなっているかを見ることは、「所得」指標を相対化する一つの指標になります。現に島の魅力について聞かれると、「都会にはないゆったりとした気持ちで暮らせること」という選択肢を三五%の在住者が選んでいますが、これは所得の格差解消が絶対的な価値になっていないことを示唆しています。

 また、世界自然遺産登録を目指すにあたっては、「山原(やんばる)率」などの名称で島内の草原、森の比率を指標にすることもできます。あるいは、「珊瑚礁面積」という指標を作れば、現状の珊瑚礁の危機的状況がつかめるとともに、他地域に比べて群を抜いていることも分かります。琉球弧にとってが当たり前なことですが、指標化してはじめて価値化されるということもあります。また、世界自然遺産登録に向けて、「森と珊瑚でも食っていく」指標としても適性があります。

「奄美自立論」49-1

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