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2008/12/06

スイカ畑事件とジョージさんのトラック

 奄美とは世界からの遅延のことである。そう見なした途端、それは奄美の内部でも描けることが分かります。

八月一五日戦争が終結、日本は負けた。しかし沖永良部の住民も兵士たちも終戦を知らされていなかった。「八月一七日、本日、名瀬支庁からきた人より変な噂が立ち始めた、それは敵と講和条約が成立したと言う話であった。我々には日本が負けたとは夢想もしない、さりとて敵が手を挙げたとも考えられない……」(沖永良部守備隊米松則雄衛生兵の手記から)。兵士や住民が終戦を知ったのは一週間も過ぎた頃からであった。 (川上忠志「復帰運動史の中の南二島分離問題」『奄美戦後史』二〇〇五年)

 敗戦の知らせは沖永良部島にゆっくり届きました。夕方に届く新聞のように。リーフに砕けた白波が時間をかけてさざ波となって届くように。

 しかし遅延は知らせだけではありません。復帰運動にしても、当初、沖永良部島と与論島ではそう熱心でなかったといいます。それが一九五二(昭和二七)年九月、二島分離報道を契機に一気に熱気を帯びます。それでできたのが、「日本復帰の歌」です。

なぜに返さぬ永良部と与論
同じはらから奄美島
友ようたおう復帰の歌を
我等血をはく この思い

 むろんこの歌は切実なのだけれど、どこかいじましさを滲ませています。兄弟で遊んでいたのに上の兄さんたちだけ先に帰って心細くなった弟たちのような。

 この歌では、「同じはらから奄美島」と言うわけですが、これはむしろ「奄美」が自明な概念ではない、いつも政治的な要請によってひとくくりに浮かび上がる概念であることを問わず語りに告げているように見えます。

 奄美は、奄美の内部にも遅延を内包しているのです。それは、奄美の幅でもあります。
 奄美は広い。

 民政官が小湊の山すそにあった「監視所」を調べるために、スイカ畑にジープを乗り入れ、さらに畑の所有者に二~三時間案内もさせたとの事である。それで畑の所有者が、畑の弁償や案内の賃金を要求したが聞き入れてもらえなかったという話をいとこから聞いた。この話を青年団の分団長会議で話した事が、情報提供者によって軍政府の耳に届いたのではなかろうかと思う。(西村富明『奄美群島の近現代史』一九九六年)

 大島の三方村青年団長の長富博一は、このことがどういうわけか、「米人のジープが三方村小湊海岸付近の西瓜畑を荒し部落民の抗議に答えて米人が暴言を吐いた」という虚偽の事実を流布したとして軍事法廷に起訴されます。

 二日にわたる公判で、「富被告は起訴事実を否認しつづけ、仮にそうした事実があっても、決して反米的立場をとったものではない事を主張」。しかし判決は、「懲役一年、出獄後一年の執行猶予、一万円の罰金」という重罪の判決がくだされたという。

 これは横暴な軍事裁判ですが、奄美が米軍統治を「威圧的」と評価する例のひとつです。
 その翌年、二島分離問題が沖永良部、与論を襲いますが、そこではスイカ畑とは別の物語がありました。

 沖永良部にはトラックが四台しかなかったので、その二台を借りて全島を回った。その時、面白いことが起きた。他にレーダー基地の米軍兵士ジョージさんが運転する一台が参加して高校生を乗せ島内を回ったのだ。 日ごろから米軍兵士と高校生たちは野球の交流で親しかった。彼らは「復帰の歌」を歌い、トランペットを吹きながらシュプレヒコールを叫んだ。その楽器も米軍から貰ったものであった。ここにも復帰運動に軍政府の監視の日が厳しい名瀬あたりとは想像もつかない大きな違いがあった。 (川上忠志「復帰運動史の中の南二島分離問題」『奄美戦後史』二〇〇五年)
   北で米軍が威圧的に島人に臨むそのほぼ同時期に南では、米兵の「ジョージさん」がトラックと運転手を買って出ておまけに楽器まで貸して高校生の復帰運動を手伝っていたのでした。米兵との関係性にしても、北の奄美と南の奄美とでは全く違っています。島を隔てるということは世界を隔てるということでした。そしてどれも奄美での出来事です。

 ぼくたちが、奄美を考えるときに必要なのは、緊急さや切実さの度合いによって取捨選択してしまったら、こぼれおちてしまうものがあるということです。どちらが奄美か、なのではなく、どちらも奄美であると、両方を視野に収めることが求められているのではないでしょうか。


「奄美自立論」39


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コメント

ラジオ聴きましたkaraoke
奄美にいらしていたのですね!

投稿: FORTUNE | 2008/12/07 00:33

FORTUNEさん

ご無沙汰しています。そうなんです、お邪魔してきました。お聞きになったのですね? お恥ずかしい。

投稿: 喜山 | 2008/12/07 16:08

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