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2008/11/07

亜熱帯自然の包容力 2

 また、「此島米少ければ、甘藷を多く棺て第一の常食とす」と、米ではなく甘藷が常食であったことも分かります。甘藷が不作のときは「蘇鉄」が常食になり、その他には、「木の実、草の葉、海苔類」を食べていると名越は書きます。

南島は我藩の恩沢を蒙りて今日を渡ると雖ども、海上百五十里を隔れば、秋より翌春にかけて、大船数十般下りて、米其外、器品に至るまで賜ふといヘども、年凶すれば差掛て食物他に求むべきたよりなし。仍て蘇鉄を夥しく植て凶年の用意とす。

 「我藩の恩沢」は名越も薩摩の則を越えるものではないことを教え、また琉球弧を「南島」と呼ぶこともあったのに気づきますが、何より食糧自給力を奪われた島人が生きる術として、「蘇鉄を夥しく植えて」いたことが分かります。

 黒糖の普遍化は名越によれば、「島民この産業をなさざるものは一人もなし」と表現されました。

砂糖を製する事、島中第一の産物にして、島民此産業をなさゞるものは一人もなし。

 黒糖製造で使う石灰が珊瑚であることも捉えられています。

宇留 焼き、石灰にして、到て上品。色火白にして密なり。砂糖に入。始生にやはらかなり。

 また、家人については、砂糖樽をかつぐ姿を文章と絵にもしています。

家人、砂糖樽かつぎ山畠より持下る。嶮難の場所にて、かつぎながら休息す。

 あの八二キロもするという砂糖樽をかつぐというのはどういうことでしょう。その樽は規格の小さいものだったのか、休息するときもかついでいるとうのだから、不思議です。

 不思議といえば、『南島雑話』で食い入るように見てしまうのは、「駝竜(だりゅう)」を島人が棒で叩いている図です。想像上の動物のことを描いているのかと思いきや、鰐と想定されています。「駝竜」は「海亀の味」がすると記録されるのですが、鰐も漂着することがあったということに驚かされます。

 本琉球の島人が訪れていたことも分かります。奄美は琉球ではない、という疎外を受けていますが、久高島から「永良部鰻魚」を獲りに来ていたり、「度奈貴(となき)島の人」が商売に、また琉球を出奔した遊女も描かれています。

 奄美は琉球ではないという疎外を受けていましたが、具体的な交流は絶えていなかったこともぼくたちをほっとさせる記述です。

芭蕉を織事は琉球、先島を初めとし、大島、徳ノ島、喜界島、沖永良部島に限ぎりたる名産にして、上製は越後などにも勝りて美しく、着すれば、涼しく軽く至てよろし。

 名越は、島人の生活を細やかに観察していて、芭蕉が琉球弧をつなぐ衣裳であることも記しています。「大和の女の歯染る」のと対比させて、女の島人が入墨(針穿)をしていることも書かれ、その文様の図も描かれています。入墨の説明文に続けて、「男女共に常に草履はく事なく、皆すめあしなり」と「草履」をはいていないと指摘されています。名越は、砂地のせいか、足の裏に土ほこりがつくことがないと不思議がっているようですが、思い出せば、一六二三年の『大島置目の条々』で「草履をはくこと」と規定されながら、それから二世紀以上経っても、島人は元気に裸足だったことが分かります。また、ふつうの家には便所(雪隠)がなく、「尿は皆豚小屋の辺に男女とも垂る。又海辺にいで弁ずる也」とあるのですが、絵としても木にまたがってした脱糞を豚が食べている図も描かれています。

 こうした描写から浮かび上がってくるのは、薩摩侵略による収奪にも関わらず、亜熱帯自然に溶け込むように生きている島人の姿です。その自然観や世界観は、ケンムンは「折々嶋人迷ひし方に、山野に引まよはす事」や、薩摩に抑圧されたノロやユタでも描写されています。ノロの樹上葬は、「ノロクメのなきがらを樹上に櫃にをさめて掛置事三年、骨洗て後に壷に納め置く」という文章と図とがあり、奄美の時間と空間の奥行を探る手がかりを残してくれています。

 ぼくたちはここに、自然を加工することも国家をつくる必然性も持たなかった亜熱帯自然の底知れない包容力と島人のおおらかさを垣間見るのです。そしてこの包容力が、島役人、衆達の富裕を生む基盤になったのではないでしょうか。

 名越左源太は、奄美の民俗をその内側から描くことのできた稀有な視線を持った人物でした。しかしもちろん、薩摩が強いている二重の疎外とその隠蔽を知らないわけではなかったのです。

一、此南島雑記は、琉球並諸島の事を些細に書記為申故、他国之人に一切為見供事禁止いたし候間、其心得第一之事に供。依人借用無用之事。

 「他国の人に見せることは一切禁止する。借用も無用のことである」。愛情あふれる筆致の外側には、薩摩武断の大風が吹いていました。


「奄美自立論」 20-2

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