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2008/11/19

近代化の第二幕。南島興産と県令三九号

 奄美の近代は、二重の疎外の顕在化とその抵抗の軌跡ですが、それは少なくとも二段階にわたっていました。
 その二段階は、単純化すれば、次のようになります。

 第一幕 丸田南里 対 大島商社
 第二幕 新納中三(にいろなかぞう) 対 南島興産
      麓純則  対 県令第三九号

 二つの段階とも立ちはだかったのは県、でした。人物として象徴させれば、第一幕は西郷隆盛だったかもしれません。第二幕は、県令渡辺千秋、いまでいう知事です。奄美は、知事、県と闘ってこなければならなかったのです。『苦い砂糖』から引用すると、その渡辺が、奄美に対しこう言います。

この南洋諸島(奄美)はわが国では無比の産糖地域である。廃藩以降、専売制を解き島民の自由意思に任せたが、産糖は年を追うごとに減少し品位は粗悪に陥っている。
 このため全島の疲弊を来し、負債は日を追って増加、ついに窮因に沈まんとしている。そのしかる所以は多少他に原因はあるにしても人民が信を棄て義を軽んじ、遊惰に流れ、奢侈に走ったことが大きい。

 これは、得能にも通じる視点であることは容易にわかります。要するに、奄美の疲弊を島人の怠惰に求める視線です。「専売制を解き島民の自由意思に任せた」ら良くなくなったというのです。恐るべき見解です。

 第二幕第一場。西郷の死とともに解体した大島商社の後を継ぐように、黒糖売買の独占を図った南島興産が登場します。それに対し、大島支庁長の新納中三は、独占を阻止すべく大阪の阿部商社に奄美進出を促し、承諾を得ます。新納は、黒糖売買の独占を阻止し、南島興産を相対化しようとしたのです。きわめて真っ当な対策だと言わなければなりません。ちなみに新納は鹿児島出身で奄美出身ではない。外交使節での渡欧の経験を持つ薩摩の元高官です。名越左源太にしても伊地知清左衛門にしても、新納にしても、ときに心ある鹿児島出身の支配階級者が奄美のために力を尽くしてくれるのをぼくたちは目撃します。人の世は捨てたものではないと思いかけますが、その稀有なことを考えれば、ぼくたちは新納に感謝したくなります。しかし、その新納は就任一年後に突然、解任されます。解任したのは、県令渡辺でした。

 第二幕第二場。渡辺は、黒糖の売買はすべて南島興産を経由せよという県令三九号を発布します。南島興産は、鹿児島商人の拠点であり、いわば大島商社の再来です。大島商社が、薩摩の過剰な武士団をいただいたものだったとすれば、南島興産は、過剰な武士団の消滅後、それでも残る幻想の過剰な武士団をいただく者たちでした。

大島島郡内二於テ甘藷ヲ栽培シ又ハ砂糖ヲ製造及砂糖ヲ売買スルモノハ総テ 組合ヲ設ケ規約ヲ定メ島庁ノ認可ヲ受クへシ

 これは、新納が仲介した阿部組を締め出し、南島興産を大島商社と同化させるのが狙いでした。しかし丸田や新納や奄美の近代化に力を尽くしてきた人々は、県の前に倒れてきただけではありません。そんな人士を前にすれば後続も続く。県令三九号という超反動立法に対して、県議の麓純則は反対を唱えます。耳を澄まそう。

第一、郡民をして鹿児島商人の食いものに供せんとするが如き知事の旨趣に対し、甚だその意を得ざること。
 第二、知事は法律・命令の範園内において行政権を行うべき筈なるに、その範囲を脱し、猥りに人民の製作品販売の規則を発布し、これに罰文を附し人民自由の権利を束縛せんとするは、則ち権限をこえたる違法の行為たること明らかなるを以て、人民はかかる県令に服従すべき義務を有せざること。
 第三、鹿児島商人が棍棒を携え阿部商会にあばれ込み、被害者より保護を要求するにもか拘らず、又その場所が警察署の門前なるにもかかわらず、これを顧みざるが如き無政府的の行動を警察官に敢てせしむるは、知事の職権を誤りたるの甚だしきことを認むること。(『大島郡の来歴』、『名瀬市誌』より引用)

 当たり前のことが当たり前に言われているだけのようにもみえます。しかし、こうした言葉を発することが大事だったのです。こうした発語なしに奄美の近代化はありえませんでした。このおかげで、県令三九号は翌年、一八八八(明治二一)年に撤回されます。

 第二段階の抵抗は、奄美大島はじめ北奄美だけでなく、与論島までの南奄美まで広がりを見せたのが特徴でした。奄美はこの二段階を経てようやく、近代の曙光に立ち会ったのです。明治になって二一年も経っていました。


「奄美自立論」 29

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