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2008/09/10

「異国から『異国』へ」7

 秀吉は明との「勘合」復活を企図したが、結局、それは明(朝鮮)侵略を引き起こした。秀吉は明侵略計画の中で亀井茲矩に「琉球守」(一五八二年)、続いて「台州守」二五九二年)の称号を与えたが、それは秀吉の東アジア諸国に対する侵略の意図と、そこに対する国郡制的な支配方式の持ち込みという二つの方針を明らかにしていた。
 島津氏は「琉球守」を豊臣政権の知行・軍役体系の論理の中でとらえ、明侵略の軍役を琉球に賦課した。そのことにより、島津氏に秀吉に対し琉球「支配」の既成事実を訴え、亀井茲矩の「琉球守」化の阻止を図った。それは功を奏し、一五九二(天正二〇)年、琉球は島津氏の「与力」とされ、茲矩には「替地」(明国訴江省台州)が与えられた。

 薩摩は、琉球に軍役を賦課したのを支配の既成事実として訴えたのが秀吉に受け入れられ、琉球は薩摩軍の指揮下に入るとみなされた。

 秀吉の朝鮮侵略の失敗後、家康は明との講和(勘合復活)を模索した。対明交渉を琉球を通じて行うため、琉球の来聘を画策した。その交渉中の一六〇四(慶長九)年、島津氏は琉球に対し「附庸」説を主張した。「与力」化がその根拠であった。来聘問題の行き詰まりが、一六〇九(慶長一四)年の島津氏の琉球侵略の直接の原因であった。

 陸奥に漂着した琉球船の琉球人を琉球に無事、戻したお礼をせよというのが来聘であり、幕府はそれを機に琉球の服属化を狙うが、それを察知する琉球は応じない。薩摩は、軍の指揮下に琉球があることを根拠に属国説を唱え、来聘問題の打開として侵略を行った。

 侵略後も琉球は、対明政策のために明の朝貢国として温存された。島津氏に侵略を契機に琉球に「附庸」説を承諾させた。そして、琉球の日本同化の方針を明確にしたが、一六一五(元和一)年に幕府の対明講和交渉が失敗し、琉球が中国との窓口としていっそう重要性を増してくると、同化から異化へと統治方針を変え、政治的・風俗的な面から琉球の「異国」化を進めた。

 琉球が明との貿易の窓口を持っていたので、侵略後も国家としての琉球は維持された。だが、薩摩の属国であることを認めさせられた。そしていったんは、琉球の大和化を進めるが、幕府の対明交渉が失敗したのを機に、非大和化へ転じた。

 対明政策の失敗後、一六一六(元和二)年以降、幕府は中国船を長崎で統制する政策を推し進め、一六三五(寛永一二)年、それが実現した。それには、一六三三(寛永一〇)年の琉明関係の正常化が不可欠であった。翌年、日本は琉球を幕藩体制の知行・軍役体系の中に組み込むと同時に、明との冊封・朝貢関係を容認し、琉球の「異国」としての位置づけを確立した。そして、島津氏は琉球支配の正当性を主張するため「嘉吉附庸」説を唱え、琉球の首長尚氏を「琉球国司」に任命し、徳川将軍のもとへ琉球使節を派遣させた。ここには、琉球の明との宗属関係を牽制することが強く意識されていたのである。

 薩摩は室町幕府から琉球を賜ったとする「嘉吉附庸」を唱えて、琉球から来聘を実現させる。琉球と明の貿易正常化により、琉球が明に完全に組み込まれるのを防ぐ意図もあった。

 一六四四(正保一)年、明が滅び、清が中国の新たな支配者となった。一六四六(正保三)年、福州の南明・唐王政権が滅亡すると、幕府は清に対し軍事的脅威を覚え、海防を強化した。ところが一六五五(明暦一)年、幕府は琉清閑係を認めた。これは、琉球支配が原因で日本が清と武力衝突することを避けるためであった。琉球に対し「不治を以治」統治方針をとったのに伴い、その後、清に対し日琉関係を隠蔽する政策が進み、一七一九(享保四)年、それは確立した。一八世紀以降、七島は、清に対し日琉関係を隠蔽するためのキーワードとして、位置づけられていった。(『幕藩制国家の琉球支配』紙屋 敦之 、1990、歴史科学叢書

 明が滅び、琉球は清と冊封関係を結ぶ。日本との関係もあったことが公然であった明とは異なり、清に対しては、琉球が日本とは無関係であると見せなければならなくなった。日本と琉球の関係は隠蔽されたのである。

 こうして、異国であった琉球は、日本の支配を受けながら、日本と無関係である「異国」へと変貌した。これらは奄美が強いられた二重の疎外とその隠蔽の背景にあるものだ。



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