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2008/07/10

『百万円と苦虫女』

 縁あって映画の試写会に行ってきた。俳優や監督の舞台挨拶がありカメラのフラッシュがたかれるシーンはTVでしか見たことがないから、まるで社会見学気分だった。

 ※「百万円と苦虫女」プレミア試写会開催!

 『百万円と苦虫女』(タナダユキ、幻冬舎)の小説は読んでいたので、物語の筋は分かっていてみたのだが、映像としてみると、主演蒼井優がぴったりはまっていて、今後この作品のことを思い出すときは、この映像と一緒にしかイメージできないだろうなと思った。

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 職場で飲みに誘われて苦笑いしていると、親しくなりかけている男の子に「いつも困った顔して笑うんですね」と突っ込まれ、「本当は行きたくないんです」と答える、その苦笑いのような表情が、いかにもこの顔でなければという感じでよかった。蒼井優演じる主人公はこのように所在がない。所在がないから所在そのものを消してしまおうとして百万円貯めたら引越しをする旅芸人のような、旅バイターになるのだ。

 そこは非現実的なのだけれど、でも「誰も自分を知らない場所に行きたい」という所在を消したい気持ちは、よく分かるものだ。ぼくも中学高校を過ごした鹿児島を一刻も早く出たかった時はそんな気分だった。そう思い出すと、自分もそうだと思うところがよく出てくる。仕事帰りに飲みに誘われるのを避けるべく、人気のあまりない駅を通勤に選んだり、その前になにしろ社会人になる初めての就職のときは、社員旅行のない会社というのが重要な条件だった。カラオケも行けない、人付き合いは苦手を旨、としてきた。それでも、否応なく参加する場になると、飲むのは滅法強く、飲むペースも態度も崩さぬままに結局は、介抱する側にいるので、酒の強さの一点が所在を助けてきた、と言えばいいだろうか。主人公でいえば、かき氷をつくる、桃をもぐのが上手で、そこで所在を作るのだが、百万円とともに去りぬ、な女を通していくので、なんとなくこちらも懐かしい気分で見ていった。

 最後は、いじめに立ち向かおうとする弟の手紙を受け取り、自分より弱い者に励まされて、背中を押されるように、「自分を避ける」場所から脱しようとするところがこの物語の出口になるのだけれど、主人公が、大事なことが言えず、余計なことは言ってしまい、肝心なところで出会いを逃してしまうコミュニケーション不全を辿っていくうちに、ぼくも懐かしい気分ばかりではいられなくなる。大事なことが言えず余計なことを言い大事な出会いを逃してしまうのは、今も変わらない自分の姿でもあるからだ。そう思い当たると、エンディングで新しい街へ出かけようとする主人公の表情は粋のいい颯爽としたものに見えてくるのだった。

 ただ、部屋に入るや、畳やフローリングの床にうつぶせで大の字になってふうっと息をつく姿は主人公ならではの生きる気分だ。それは、舞台挨拶で、バイトをするとしたら何をしたいかと聞かれて蒼井優が、「一日に十本しか借りに来ないようなそんなテンションのレンタルビデオ屋さん」と答えるその中身と同じものだと思う。

 蒼井優は、『ニライカナイからの手紙』という映画でも主演を演じたという。気になる作品だ。


 ※映画『百万円と苦虫女』




 

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