« 『めがね』は島尾敏雄エッセイの映画化!? | トップページ | イエロー・ジジイ »

2008/01/17

ミシュフガとマッタブ

 竹下徹の『ドゥダンミン3』。できるだけ、方言を楽しむように、与論の生活を味わうように読んでみたい。

 トゥラが中学生だった昭和二十七年以前のニワトリは、文字通り庭で放し飼いされる「庭鳥」だった。鶏は林の中に巣を作り卵を産んだ。その巣を見つけた子どもは、手柄になり親からほめられた。鶏は巣に毎日一個ずつ卵を産む。一腹で多いときは二十数個産む。巣から卵を取るときは、必ず一個は残して取る。全部取ってしまうと鳥は翌日からその巣を放棄して別のところで産む。一個だけ残して置くと毎日産み続ける。残して置く一個の卵を 「ミシュフガ」 という。

 あるとき、林の中で雌鳥が、くっお、くっおと異様な声で泣き叫んでいた。トゥラが近づいてみると雌鳥は羽を逆立て興奮していた。大きなマッタブ(アカマタ蛇)が卵をねらって近づいているところだった。先の割れた赤い舌を出し、左右にぺろぺろ動かしていた。トウラもびっくり、怖かったが勇気をふるい、付近の木の枝を探して蛇に襲いかかった。かねて蛇をたたくときは、頭をたたかなければ効き目はないと聞いていたので、頭にねらい定めて思いっきり打ち据えた。棒は折れ、蛇はのたうった。次の瞬間蛇は反対方向にくねくねと逃げていった。一発パンチを浴びせただけでダメージはなかった。トゥラは、膝ががくがくふるえて、折れた棒を握りしめて見送るばかりだった。仕留められなかった残念さより、自分に向かってこなかった安堵感が胸に広がった。再び棒を探して追いかけようという気拝は湧かなかった。

 あのマッタブの野郎懲りずにまた来るだろうと、ミシュフガも残さずに全部持ち帰った。そのことを家族に話したら、「蛇は仕返しに来るものだそうだよ」 とまた脅かされた。
                        (『ドゥダンミン3』竹下徹)

 鶏は養鶏場のなかにいるのではなかった。林のなかに放し飼いにされて巣をつくり卵を産む鶏。卵、美味しそうだ。

 巣を見つけるのは子どもの役割。そして、鶏が巣を移動してしまわないように卵は一個、残しておく。それがミシュフガ。

 蛇が鶏を狙う。毒蛇ではないけれど、中学生の男の子も膝が震えるくらい、怖い。

 人を含めて動物が生き生きしている。人も動物も同じ場所、空間で生きていたのだ。


|

« 『めがね』は島尾敏雄エッセイの映画化!? | トップページ | イエロー・ジジイ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87956/17728544

この記事へのトラックバック一覧です: ミシュフガとマッタブ:

« 『めがね』は島尾敏雄エッセイの映画化!? | トップページ | イエロー・ジジイ »