« 神アシャギとサークラ | トップページ | 安田のシヌグ »

2007/12/21

神アシャギとシラ

 池は、正方形という建築形態の同一性から、「高倉」に続いて、「稲積み」についても、神アシャギとの類縁を探っている。

Shira
 
















 稲積みは、八重山では「シラ」と呼ばれている。

事例十七 八重山地方の稲穂みシラ
   稲穂を積み重ねて貯える、いなむら(稲叢)をシラといっている。普段は甘藷食をしていて、時々稲穂をシラから引き出して精米するわけだが、とても便利な構造で、ネズミの害を防げるし、湿気を防ぐのにも最適である。大量に精米する時は、マイクラシ(米おろし)、シラウラシ(しらおろし)といって、三重四重におおいかぷせてある茅こもを取り除いてから、稲束をとり出し、また元どおりの姿にしておくのである。小量の米が必要な場合は、シラのところどころから稲東をつかんで披きとるのであるが、この方法を、シラヌイ(しら抜き)、マイヌイ(米抜き)という。これは抜き方がまずいとネズミに巣を作らせてしまうので、注意深くところどころから適当に抜き出さないといけない。
 新米が入ると稲束のまま庭や道に一面に広げて乾燥させた後、吉日を選んでシラに積み上げ、表面は茅とまをおおうて、頂点をフガラヅナ(黒ツグの毛の綱)で巻きつけた茅で押えてつくり上げる。シラを積み上げたら、シラヌニガイ(願)といって神酒とツカンバナ(一合ほどの白米)を供えて祈願し、夜はシラヌヨイ(祝)といって、ごちそうを作って喜び合う風習がある。

 (中略)ところで、シラは建築的施設とはいい難いが、発達史的にみて稲穂貯蔵の原初的施設といえよう。このシテの石柱の高さを、人が屈んで出入できる程度まで高くし、その上に筆子竹の床のある収納空間を予め造れば、稲束の出し入れに簡便な建築的貯蔵施設ができあがるだろう。このように想定されるシラの発展型は南西諸島の高倉に直接つながるものであろうし、それはまた、外観および正方形平面において、神アシャゲ(伏屋型)のそれに酷似するものであろう。すなわち、神アシャゲとは稲積みであるシラを原型とし、高倉という建築形態へ発展する過程で、祭場として機能分化したものと考えられるのである。
『祭儀の空間―その民俗現象の諸相と原型』池浩三)

 本当はここはゆっくり進みたいところだ。
 柳田國男は、『海上の道』の「稲の産屋」のなかで、「シラ」を「白」と結びつけるとともに、同じく八重山では人間の産屋を「シラ」と呼んだことから、「シラ」を、生むもの、育つものと解釈しようとしている。
 また一方、村山七郎は、「シラ」の「白」を、ティダに通じる「光」としてその語源を追究していた。ぼくはそれを手がかりに、映画『めがね』の舞台にもなった寺崎を、白い崎、光る崎と解釈しようと試みたことがある。(「赤と白-赤碕と寺崎」)。
 それだけでも面白いのだが、ここにもうひとつ、「シラ」が稲積みとして呼ばれてきたということに思いを寄せると、喜山康三さんが言うように、シヌグのサークラの「サー」を「白」と理解する可能性もあることに気づく。与論言葉では、「白」は「サー」だからである。
 「シラ」について、一方で、「生まれるもの、育つもの」という解釈があり、もう一方で「光」という解釈がある。前者によれば、稲積みを「シラ」と呼んでいることの関連から、サークラを「白の倉」と理解できてくるし、「光」と解すれば、寺崎を「白の崎」と理解できてくる。どちらも魅力的な考え方だと思える。

 さて、ここで池の文脈に戻ると、柳田國男や村山七郎の語源探求に比べると、「神アシャゲとは稲積みであるシラを原型とし、高倉という建築形態へ発展する過程で、祭場として機能分化したもの」という池の仮説は底が浅すぎると思える。神アシャギの原型は、稲作農耕以前に求めることができるものであり、「稲積み」が原型であるはずはないと思える。池は、「稲積み」の形態が、彼が神アシャギの原型とみなす「伏屋型」に類似する軒の低さから、そこに原型を見るのかもしれないが、「稲」に起源を封じる窮屈さがある。この窮屈さは、「日琉同祖論」の窮屈さと似ている。



 

|

« 神アシャギとサークラ | トップページ | 安田のシヌグ »

コメント

 クオリアさん

 サービマートィは、さしずめ
白絹(衣)を纏った伊達男(チュラニセ)
でしょうか

 アジニッチェーは
ユンヌの按司であり、かつ根人であった
と考えると、辻褄が・・・あわないこと
はないでしょうかね?

 与論の語り伝えにあるムヌガッタイは
興味尽きないことばかりです


投稿: サッちゃん | 2007/12/21 23:04

サッちゃんさん

そうですね。口承のなかに謎解きのヒントがいっぱい詰まっているのでしょう。
ゆっくりですが、接近していきます。

いちばん詳しい資料はあるのでしょうか?
資料というより、いちばん詳しい人、なのでしょうか。

投稿: 喜山 | 2007/12/22 11:16

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 神アシャギとシラ:

« 神アシャギとサークラ | トップページ | 安田のシヌグ »