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2007/11/27

「二才咄格式条目」とは何か

薩摩の思想の核心には、「郷中教育」があり、
それは『薩摩のキセキ』でも、
手放しで賞賛されているものだ。

ぼくは16年くらい前に薩摩思想の批判を書いたことがあるが、
「郷中教育」を追究すると、すぐにその元になったものとして、
「二才咄格式条目」に突き当たった。

『薩摩のキセキ』でも、
「二才咄格式条目」が原文と意訳で掲載されている。

長くなるので、意訳だけ、挙げてみる。

  二才咄格式条目(にぜばなしかくしきじょうもく)

  【意訳】
  一、まず、武道をたしなむこと。
  一、日頃から士として身辺油断なく振る舞うこと。
  一、もし、諸用で先輩の家などへ行くときは用件がすみ次第、
     即刻下ること。無駄に長居しないこと。
  一、咄相中(郷中教育の方限のこと)においては、
    ひとえに膝をつき合わせて話し合うことが肝心である。
  一、たとえ親しき仲間内であっても、不作法や過言は禁止である。
    古風を守れ。
  一、咄相中誰であっても、よそに出かけて議論する際に
    双方納得がゆかず意見がまとまらない時には、
    双方納得がいくまで何度も論を詰めて落ち度のないようにすること。
  一、第一は嘘を言わないこと。士の道の一番の真意であるから、
    必ず守ること。
  一、忠孝の道は当然、守ることに心がけるべきであるが、
    万一、不測の事態となったときはその場遅れをとらないように
    一生懸命動くこと。武士の本意たるべきこと。
  一、山坂を登って足腰を鍛えることに心がけよ。
  一、二才(今でいう中高生程度の若者、昔は元服後の噴)は
    落髪をそり大角前髪をとることばかりでなく、
    すべてに於いて武辺を心がけ、心底忠孝の道に背かないこと。
   以上の旨、堅く守ること。もしこの旨に背けば二才としては取り扱わない
   (放り出され村八分にされる)。軍神摩利支天・南無八幡大菩薩、
   武運の冥加尽き果つべき儀疑いなき者なり。

躓くというより、ずっこけることの多い『薩摩のキセキ』のなかで、
ぼくが躓いたのは、この意訳だった。

これは、不正直な意訳だと思う。

まず、第二条の、「身辺油断なく振る舞うこと」の原文は、
「無油断可致穿儀事」で、
「常に油断なく穿儀すべきこと」となる。
穿儀は、詮議でり、字義通りには、
「罪人を取り調べること、捜索すること」になる。

穿儀は、油断なく「振舞う」というより、
武士の格式について油断なく相互監視せよという意味に近いと思える。

この「穿儀」は、第六条の、
「双方納得がいくまで何度も論を詰めて落ち度のないようにすること」
のくだり、「論を詰めて」の個所にも現れる。

ここれは、第一条の「振舞う」よりは、
字義の周辺の意味で使われているが、
的から逸らされている。

ここでは、「論を詰めて」というより、
相互監視を強めて詮索しあえと言っているのだと思える。
だいたい、ふた口目には「議を言うな」でことを済ませる風土で、
「論を詰める」自体、説得力がない。

次に、第二条の「先輩の家」は、
「咄外之人」のことである。
意訳でも注記しているように、
「咄」は、「郷中教育の方限」のこと、
つまり、いうところの“郷”のことだから、
この格式の及ばないところへ行ったときには、という意味だ。
「先輩」という意味ではない。

であればこそそのときには、長居をするな、
と言っているのである。

そして、最も不正直だと思うのは、最後の条にある
「此儀ハ、咄外之人たゑて不知事ニ而候事」の個所を、
意訳に組み入れていないことだ。

「このことは『咄』の外の人については全く知らない、問題にしていない」
と言っているのだと思う。

この格式が、「咄」、つまり、“郷”の内部について、
適用する条目について書かれたものだということを
正直に打ち明けた個所であり、
二十年近く前に、これを読んだときも、
この格式の特徴をもっともよく主張する個所だと思えた。

そこを、意訳から外す仕草に、ぼくは躓く。

この、「咄」と「穿儀」というキーワードからみれば、
賞賛とは別の相貌が「二才咄格式条目」から浮かび上がってくる。

   つづく



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