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2007/10/04

スセン當式土器から兼久式土器へ

高梨さんは、『ヤコウガイの考古学』を、
奄美諸島の「空白の時代」である
古墳時代並行期~平安時代並行期の
土器編年を解決していくために、
スセン當式土器と兼久式土器の検討から始めている。

その検討は緻密なもので、土器の集成、
地層の層位による先後関係や、
器形、文様の要素や意匠に及んで詳細だ。

そこから、スセン當式土器から兼久式土器への
連続的な移行を見て取り、書いている。

  小湊フワガネク遺跡群出土土器の検討を中心に
  兼久式土器の分類を行い、帰属年代を確認する作業の延長として
  兼久式土器の編年まで検討してきた。最後に兼久式土器について
  結論的にまとめておきたい。

  兼久式土器は琉球弧の奄美諸島を中心に用いられた土器文化で、
  おおよそ七世紀前後に成立して十一世紀代に消失する。
  器種は基本的に甕形土器壷形土器から構成されていて、
  杯形土器等は含まれない。

  構成比率は、甕形土器が圧倒的多数を占めていて、約九割に達する。
  甕形土器の約九割、壷形土器の約八割が沈線文隆帯文
  装飾されていて、整形土器のほとんどは底部に木葉痕が施されている。
  その出現から終焉まで五段階に大別することができ、
  出現段階の土器群は沈線文のみを施すもの・刻目隆帯文を回らせて
  沈線文を施すもの・隆帯文を貼り付けるもの・無文のもの等で多彩に
  構成されているが、段階が新しくなるにつれて沈線文が次第に減少して、
  単純化(無文化)していく特徴が認められる。

  とくに刻冒隆帯文を回らせて沈線文を施す一群が兼久式土器の
  典型と考えられるもので、出現段階では刻目隆帯文の上下に
  沈線文を施すもの・刻目隆帯文の上部のみに沈線文を施すもの・
  刻目隆帯文のみのものが並存するが、まず刻目隆帯文の
  上下に沈線文を施すものが消失、次に刻目隆帯文の上部のみに
  沈線文を施すものが消失、さらに刻目隆帯文のみのものが消失して、
  段階的に消失して単純化していく様子がうかがわれる。

  兼久式土器の先行段階には「スセン當式土器」と称される
  古墳時代並行期の特徴的土器群が存在する。
  兼久式土器はスセン當式土器の文様を継承しながら
  土師器の影響を受けて底部形態は脚台から平底に変化して
  成立したと考えられ、土器型式の交代には連続的変化が認められる。

  また兼久式土器の後続段階には、類須恵器(カムィヤキ)と
  称される陶器生産が開始されていて、
  その生産開始直後に兼久式土器は消失する。
  (『ヤコウガイの考古学』高梨修

 ※「沈線文」

大部をなすこの本の三分の一が土器検討に割かれているので、
こんな風に一挙に結論まで跨ぎ越すのは、
本の紹介文としては礼を失するのだが、
土器の推移を検討する文章に刻まれたひとつひとつの作業に、
ひとかたならぬ情熱を感じ取ったということは、
感想として書き留めておきたい。

ぼくは高梨さんの土器の表情を繊細に辿る考察を読みながら、
ほんの少し、インディアナ・ジョーンズのような
考古学者の気分を味わわせてもらった。

では高梨さんは、何を目指してこの緻密な作業を行っているのか。
それが次に見たいことだ。


注:土器の用語については、なるべくビジュアルの伴うページを
  任意に選んでリンクした。



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コメント

喜山さん、こんな丁寧に読んでくださり、ありがとうございます。
たいへん恐縮しています(赤面も)。

土器編年の難解な章までご紹介いただき、ありがとうございます。
あれ、分析するのも、執筆するのも、相当大変でした。

まずは御礼申し上げます。

投稿: NASHI | 2007/10/04 21:44

NASHIさん。

いや本当は、高梨さんの成果を「絵」に落したいんです。
ビジュアルで追ってみたいですね。

投稿: 喜山 | 2007/10/04 22:55

 クオリアさん

「ヤコウガイの考古学」という書名だけでも興味津々
な思いです。ユンヌンチュとしては・・・

 兼久(ハニク)は、茶花に小字でありますよね
ほんとは、もしかして、兼子がハニクでは?

 ヌガチーボー(どうしてかといいますと)
ハニブは、兼母で、その場所は飛行場のある所です

 ムッカーシ ワーチャガ パッタイナガアタシガ
説明を読むだけでも 奥深いものを感じます

 そのうち、きっと読む機会があると思っています

投稿: サッちゃん | 2007/10/05 23:14

サッちゃんさん。

奄美を正面から、かつまっすぐに捉えた論考は、
実はなかなかないと思っています。

そういう意味でも価値ある本です。

投稿: 喜山 | 2007/10/06 07:22

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