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2007/09/21

全国平均の4倍

  「自然を相手に、百二歳まで生きてきました。
  これからも朗らかな気持ちで幕を下ろしたいです」
  (百寿にまなべ!<下>
  自然の中で奄美の“庭師”有親さん 『捨てず、残さず』信念に)

百二歳になる奄美大島の薗さんの言葉だ。
百二歳でよくしっかり言えるなと思う。

けれど思い返してみれば、ぼくの祖母(ぱーぱー)もそうだった。
祖母が百五歳で他界したとき、
生き切るとは自他に悔いを残さぬこととみつけたり、と思った。

最期まで慈愛の女性であることを止めなかったが、
それでも、晩年は目が次第に見えなくなり、
それに応じて、人の識別が難しくなるようだった。
幻覚を見ている節もあった。

でもその過程は、実にゆっくりしたもので、
ある年、自分のことをすぐに分かってもらえなかったと思ったら、
翌年はすぐに名前を呼んでくれたこともあった。

その年単位の時間をたっぷりかけた移り行きのなかで、
ぼくたちは、祖母がかつての祖母ではなくなっているのを
ゆっくりと受け入れていくことができた。

祖母にしてもそうだ。
叔母が、「物や人を忘れたり見えなくなっていって、
だんだんこの世から去っていってるんだね」と
言っていたのが忘れられない。

そんな祖母が他界したとき、
生き切ったという巨大な完結感がやってくるのだった。

祖母を思うと、かくありたいという希望と、
到底及びがたしという失望とが交互にやってくる。

 ○ ○ ○

薗さんの長男が語っている。

  家の仕事を手伝う中で「捨てず、残さず」をたたき込まれた。
  海で小貝をたくさん取ってきたら、イクさんに「大きくなるまで
  海に帰してきなさい」としかられた。「木を一本切るのも、
  よく考えて切るんだよ」とも教わった。
  ウニの殻は畑にまいて肥料にした。

「捨てず、残さず」。
これは言い換えれば、自然の時間を越えない、
と言っているようにもみえる。

  長寿の島 奄美大島、徳之島、与論島などの奄美諸島は、
  人口10万人あたりの100歳以上の人の数が約95人と
  全国平均の4倍近くに達する(1日現在)。

全国平均の4倍。
これはただの数字遊びに過ぎないが、
奄美は、全国平均の4倍、時がゆっくり流れているのだ。

都市の先端では時間は加速し、
また、都市でなくても、インターネットしながらテレビを観るのは
日常的な光景になり、それだけなく、会議中に携帯したり、
ノートPCで別の仕事したりする人種も現れて、
時間は加速するだけでなく重畳していっている。

奄美・沖縄の琉球弧は、微温的に、ここにはかつての日本がある
などと言われることもあるけれど、ことはそれどころではなく、
奄美の自然時間と都市時間の加速・重畳の分離度は
ますます激しくなっている気がする。

奄美には、自然の時間が流れ、
島人はその時間に調和して生きてきただけだ。

しかしこのことを、都市の時間を同時に視野に入れてみると、
基底となる自然時間を持っている場所としての
存在意義が浮かび上がってくる。

奄美の力とは何か。

薗さんの言葉は、それを知恵として語るかのようだ。




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コメント

僕の場合、通勤時間が徒歩3分(走れば1分)というのが自慢です。
都市圏ではほとんど考えられない通勤時間です。
都市圏の通勤時間分が僕の余暇(原稿執筆時間)として生まれてきます。
僕は自然時間では生活していませんが、
それでもすこぶる快適です。

投稿: NASHI | 2007/09/21 21:34

NASHIさん

走れば1分てすごいですね。
そのことの豊かさ、計り知れないと思います。

こんど高梨さんの論文に出あうときは、
そんな時間の流れのことも思いながら読んでみます。

投稿: 喜山 | 2007/09/22 14:42

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