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2007/09/22

百分間の帰省-映画『めがね』メモ

  観ているうちに、寝ちゃうかもしれないですね。(小林聡美)
  うん。日本にこんなに気持ちのいいところがあるのかしらというくらい、
  海が穏やかで・・・。(市川実日子)

ふつう「寝ちゃうかも」なんて言われたら退屈な映画だと思われそうだが、
これがほめ言葉になるのが、『めがね』という作品だった。

「携帯が通じなさそうな所に行きたかった」という割には、
「いえ、結構です」、「少し、放っておいてください」、「無理」、などと
都市のノリそのままでほぐれない、小林聡美扮するタエコ。

そして、他の登場人物とともに、もたいまさこ扮するサクラは、
「おはようございます、朝です」、「氷、ありますよ」と、
キーワードのような台詞しか言わないのに、
かたくななタエコを、まるでユタ(巫女)のように、
作品のメインテーマである“たそがれ”の世界に導いてゆく。

この流れに乗って、ぼくもぼくのたそがれの世界に入っていくようだった。

茶色に枯れた葉もある蘇鉄、元気なさげなアダン、青々と茂るモンパ、
緑とコントラストをなす島の赤土、背景をなす砂糖きびの畑、
放物線を描くようにたれる砂糖きびの葉、石灰岩がごろごろする道、
海辺の砂の肌色を含んだ白。その砂浜の白に溶け込む珊瑚岩の白。
曇り空の海の青と陽射しに照らされた海の青。
イノー(珊瑚礁)の、あのコバルトの蒼。
黒白まだらの山羊、どこからともなく聞こえる牛の声。
どこからともなく現れる猫。夕陽に照らされた砂浜を掘る犬。
いつも聞こえているような、風の音、鳥のさえずり、波の音。

そうそう。かき氷を食べるシーンだったろうか。
さざ波を映していると思いきや、ぐいぐいと汀に引き寄せられるようで、
思わず、どきどきした。映画撮影としてではなく、観ているうちに、
カメラマンが惹き寄せられたように見えたのだった。

かき氷を食べるタエコの肩越しには、防砂林のモクマオウが見えた。
あのモクマオウの向こうに、もうすぐ洗骨を迎える
祖父ちゃんのお墓がある、などと思った。

タエコの肩越しに、ぼくは現実を見たのだけれど、
それが、作品世界と地続きにあるように、自然に思えるのだった。

寺崎の海岸が白く映えていた。
言語学者の村山七郎は、ジャワ語 sila[光線]、
フィージ語 zila[(天体が)輝く]、サモア語 u|ila(「いなづま)」
に対応させるように、南島の祖語として*t'ilak(「光線」)を導いている。
この、*t'ilak(「光線」)は、ティラでありティダ(太陽)へとつながっていく。

ぼくたちは以前、寺崎のティラを洞穴と解する理解を試みたけれど、
村山の解釈に添えば、寺崎とは「洞窟の崎」ではなく、
「太陽の崎」なのかもしれない。
ぼくのたそがれは、そんな連想に進んでいった。

この上なくゆるやかな時間が流れて、
ぼくは、百分間の帰省を堪能させてもらった。

映画『めがね』は、たとえば、三線や与論言葉や、
本当はめったに見ないけどシーサーなどの琉球的な事象に頼らずとも
(もっとも、メルシー体操したりかき氷をたべたりする
ゆんぬのワラビンチャーは可愛いけどね)
与論島を描くことはできることを示してくれた。

映画『めがね』の「たそがれ」から、
琉球の本質を捉えた高嶺剛監督の映画『ウンタマギルー』の
「琉球の聖なるけだるさ」の世界まで、ほんの少しの距離なのだ。

けれど映画『めがね』のことを言うのにそれを説明する必要はない。
ぼくは、与論島を丸ごと生かすように作品をつくった荻上監督に
感謝しないわけにはいかない。
トオトゥガナシ、ミッタンイチャリタン。

帰省したいけど叶わないとき、ぼくはまたこの映画を観るだろう。

Tilazaki_2

















(春にタエコたちを迎えた寺崎の夏)




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コメント

先日銀座で観てきました。満席でした。
ストーリーに起伏があるわけでもなく、ただ淡々と進む映画でしたけど、作られた音ではなく、常に自然の音が流れる心地いい映画、、、その中に自分がいる様な錯覚に陥った映画は初めてでした。公開中にもう一度、今度は興奮を抑え、ゆっくり黄昏ながら観に行くつもりです。
「太陽の崎」いいですね。寺崎海岸は本当に眩い海岸です。

投稿: lagoon | 2007/09/27 00:10

lagoonさん。

ぼくも銀座で満席でした。(^^)
lagoonさんがブログで寺崎は「白」だと書いているのを見て、
「太陽」とのつながりを確認するようでした。
与論の砂浜も表情豊かですね。

ぼくもいずれもう一回、観に行きたいと思っています。

投稿: 喜山 | 2007/09/27 08:27

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