津堅地名考9 「グスク」の可能性
ここでとどめておくべきかもしれないが、
もうひとつだけ、可能性を提示しておきたい。
琉球弧にとって大事なキーワード、
「グスク(gusuku)」についてだ。
「グディキン(gudikin)」と「グスク(gusuku)」には
つながりがあるのではないだろうか。
もっと言えば、「グスク(gusuku)」の由来を
「グディキン(gudikin)」に求めることができるかもしれない。
というのも音韻変化としては、「久高(kudaka)」と同じように、
「グディキン(gudikin)」から「グスク(gusuku)」への変遷を
辿ってみることができる。
gudikin
↓「ディ」の転訛で「ジ」
guzikin
↓「ジ」の清音化で「シ」
gusikin
↓「i」の「u」への転訛。
「n」の脱音
gusiku
こうして、「グディキン」は、「グシク」となる。
「グシク」か「グスク」かという議論もあるが、
サ行内での変化で、訛りの範囲で両方ありえるので、
どちらと言ってもいいことだ。
むしろ、この音韻変化の想定で、いちばん危ういのは、
語尾の「n」が脱音することはありえるかということだ。
語頭が「N」音化する例が、琉球の方言のなかで、
「んかし(昔)」 のように、しばしば見受けられる。
そして、この果てに、
「n」の無声音化による脱落を想定するこもできる。
しかし、語尾の「n」音が脱落することはあるのか、
いま確かなことを言うことができない。
これは、今後の課題としたい。
「崖のある山」として「グスク」を解することはありえる気がする。
また、起点を「グディキン(gudikin)」とせず、
「グディキ(gudiki)」と置くことで、
「グスク(gusuku)」への変化をスムーズにすることも考えられるが、
準備不足の段階で深入りはすまいと思う。
可能性あるアイデアとして提示しておきたい。
○ ○ ○
「チキン」を解読しようとして行き着いたのは、
それが「崖のある(生活圏としての)山」という意味を持つということだ。
しかし、その意味は津堅だけでなく、
具志堅、久手堅、宇堅、宇検、そして久高も
同じ意味ではないかという広がりが同時に得られたのだった。
地名の由来は、地名の数ほどにあるわけではない。
むしろ、偶然と発音の自由度の幅のなかで、
音と文字の落ち着いた先に、それぞれの地名を名づけた島人の
個性や環境を見ることができるのかもしれない。
地名は奥深く、興味が尽きない。
ぼくたちはこうして、初期琉球弧の島人との対話の幅を
増やしているのではなだろうか。
※「津堅地名考1 チキンとは何か」
「津堅地名考2 手がかりとしてのウティキン」
「津堅地名考3 キンは山」
「津堅地名考4 グシは崖」
「津堅地名考5 グディキン(gudikin)」
「津堅地名考6 グディは『崖』か」
「津堅地名考7 津堅=久高」
「津堅地名考8 久高島の由来」
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