« 縦断するシヌグ祭 | トップページ | 「観光するところなんて、ありませんよ」 »

2007/08/22

シヌグの語源考

これまで何回か記事にする機会のあったシヌグ祭だが、
ぼくも「シヌグ」の語源のについて仮説を提出したい。

 シヌグは、奄美・沖縄の開発祖神の男神とされる
 シニレクから来ている。

これは、新しい考えではなく、
『与論島-琉球の原風景が残る島』によれば、
小野重朗が、「シネリヤ(琉球神話の最初の男)からきている」
という説を出している。

また、山田実は、『与論島の生活と伝承』で、
「シニグク(神名)という形から、末尾の『ク』音を省略して、
『シニグ』という語形が生じたものと見られる」と書いている。

ぼくの仮説も、開発祖神名からの音韻変化で説明するものだ。

シニレクから始める。

まず、シニレクなどで表音される開発祖神は、
五母音の言葉であり、それが南島の三母音の世界で、
変容を受けたと仮定する。


 sinireku

まず、母音(a・i・u・e・o)に挿まれた(r音)は、
語中で脱落するというのが、
東北語や西南語の特徴として挙げられている。

 ↓語中の「r」の脱落

 sinieku

次に、三母音変換を行う。

1)(a・i・u・e・o)は、(a・i・u・i・u)となるので、(e)→(i)。
2)吉本隆明-加治工眞市による、
 八母音(五母音)と三母音を対応させた五十音表のカ行音により、
 (ku)→(gu)。

 八母音(五母音)   甲   乙   甲乙  甲乙
           カ キ   キ ク ケケ  ココ 

 三母音        ti     ku su,ki (ku)ku
           カ チ   キ ク スキ  クク
           ga ti n,si giz gu gi   gu
           ガ チ   ギ グ ギ   グ

 ↓三母音変換

 siniigu

 ↓「ii」の単音化(i)

 sinigu

こうして、「シニレク」は、「シニグ」に変換される。

「シニグ」と「シヌグ」は、ナ行間の変化だから、
シニグとシヌグのどちらかという議論もあるが、
両者は訛りの範囲であり、シニグでもシヌグでも等価である。

また、「凌ぐ」から来ているという説は退ける。
そもそも、豊かさを祈願する祭儀において、
「凌ぐ」は、名称として採用されないと思える。
さらに、谷川健一の「しのくる」(踊る)というおもろ語と関連づける説も、
無理があるのではないかと考える。

 ○ ○ ○

シヌグ祭にはある人工的な匂いと、
共同祭儀としての新しさを感じる。

シヌグは、その核には、
・スク(シュク)の到来の祝い
・パラジ共同体の由来の確認、祖霊信仰
・豊作祈願
・共同体のお払い
など、個々それぞれは、深い歴史を持つ自然な祭儀だが、
シヌグとなったときには、
それぞれの要素を複合させていること、

また、本来、豊漁祈願の別の共同祭儀であるはずの、
ウンジャミ祭と同期を取り、カップリングしていること。
シヌグとウンジャミは起源同一説もあるが、
この共同祭儀としての複合性に、
人工的な匂い、あるいは政治性を感じる。

また、男性中心である点、母系制の強い琉球弧にあっては、
新しい祭儀だと思える。

そうだとすると、祭儀の名称も、
抽象的な言葉を選択するのではないかという考えから、
開発男神名を由来にをとる仮説を検証してみたところ、
音韻変化からきれいに説明がつくのに気づいた。
こんな過程で考えたものだ。

この仮説がどこまで行けるか。
シヌグ祭自体の分析やウンジャミ祭との関連について、
後日を期したい。




|

« 縦断するシヌグ祭 | トップページ | 「観光するところなんて、ありませんよ」 »

コメント

クオリアさん

 シニグは、凌ぐではないでしょうか?
そういう先輩の言葉もありました

 視点が、大切かと思います
「もう頑張らなくていいよ?」という
云い方は、好きではありません

 北京のことです
「戸籍なし」510万人。総人口1770万人突破。

 チベット、増える観光薄れる伝統
建設ラッシュ、漢民族流入

 パレスチナのことです
ガザ70万人電気なし

 2007年8月22日
西日本新聞の見出しですが・・・

 親先祖のユンヌというふるさとが元気で
いれば、キバリバドゥ

 温故知新、いい言葉ですね
ところで、「チュラシャイ(ん)」は、
どういう意味、由来の言葉なのでしょうか

 ユンヌンチュ方に…、?教えて下さい

投稿: さっチャン | 2007/08/22 21:33

おはようございます。

 見字ら謝意。

 ちゅらさい。

   顔が美しい。

     見た目が美しい
             でしょうか?

   面が美しいが  心までは  どうでしょうかね。
     ガシガシ   がしがよー
               がんなてぃ  でーくとぅよー

      言い訳はよそうよ お富さん。

シニレクの男神に頼りたい
    ウンジャミが女神であり
       山と海の祭りであろうとするが
           言葉遊びはシニクレナイ
              
      凌ぐ はあまりにも直接的すぎて
                  思いたくない。

投稿: awamorikubo | 2007/08/23 04:53

さっチャンさん。

チュラシャイは、
「清ら」に「しゃい(さい)」という形容詞語尾を
つけたものではないでしょうか。

「ちゅらさん」が与論島舞台だったら、
「ちゅらさい」になっていたわけですね。

視点、ですね。
シニグのテーマは、時間かけてゆっくり醸成したいと思っています。

投稿: 喜山 | 2007/08/23 15:53

awamorikuboさん。

沖縄でよく使われる「だからよー」は、
与論だと、「がんなてぃちょー」とかになるんですね。
そんな連想しました。

それにしても、morikuboさんの
フトゥバ遊びは逸品ですね。

投稿: 喜山 | 2007/08/23 15:56

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: シヌグの語源考:

« 縦断するシヌグ祭 | トップページ | 「観光するところなんて、ありませんよ」 »