シヌグの語源考
これまで何回か記事にする機会のあったシヌグ祭だが、
ぼくも「シヌグ」の語源のについて仮説を提出したい。
シヌグは、奄美・沖縄の開発祖神の男神とされる
シニレクから来ている。
これは、新しい考えではなく、
『与論島-琉球の原風景が残る島』によれば、
小野重朗が、「シネリヤ(琉球神話の最初の男)からきている」
という説を出している。
また、山田実は、『与論島の生活と伝承』で、
「シニグク(神名)という形から、末尾の『ク』音を省略して、
『シニグ』という語形が生じたものと見られる」と書いている。
ぼくの仮説も、開発祖神名からの音韻変化で説明するものだ。
シニレクから始める。
まず、シニレクなどで表音される開発祖神は、
五母音の言葉であり、それが南島の三母音の世界で、
変容を受けたと仮定する。
sinireku
まず、母音(a・i・u・e・o)に挿まれた(r音)は、
語中で脱落するというのが、
東北語や西南語の特徴として挙げられている。
↓語中の「r」の脱落
sinieku
次に、三母音変換を行う。
1)(a・i・u・e・o)は、(a・i・u・i・u)となるので、(e)→(i)。
2)吉本隆明-加治工眞市による、
八母音(五母音)と三母音を対応させた五十音表のカ行音により、
(ku)→(gu)。
八母音(五母音) 甲 乙 甲乙 甲乙
カ キ キ ク ケケ ココ
三母音 ti ku su,ki (ku)ku
カ チ キ ク スキ クク
ga ti n,si giz gu gi gu
ガ チ ギ グ ギ グ
↓三母音変換
siniigu
↓「ii」の単音化(i)
sinigu
こうして、「シニレク」は、「シニグ」に変換される。
「シニグ」と「シヌグ」は、ナ行間の変化だから、
シニグとシヌグのどちらかという議論もあるが、
両者は訛りの範囲であり、シニグでもシヌグでも等価である。
また、「凌ぐ」から来ているという説は退ける。
そもそも、豊かさを祈願する祭儀において、
「凌ぐ」は、名称として採用されないと思える。
さらに、谷川健一の「しのくる」(踊る)というおもろ語と関連づける説も、
無理があるのではないかと考える。
○ ○ ○
シヌグ祭にはある人工的な匂いと、
共同祭儀としての新しさを感じる。
シヌグは、その核には、
・スク(シュク)の到来の祝い
・パラジ共同体の由来の確認、祖霊信仰
・豊作祈願
・共同体のお払い
など、個々それぞれは、深い歴史を持つ自然な祭儀だが、
シヌグとなったときには、
それぞれの要素を複合させていること、
また、本来、豊漁祈願の別の共同祭儀であるはずの、
ウンジャミ祭と同期を取り、カップリングしていること。
シヌグとウンジャミは起源同一説もあるが、
この共同祭儀としての複合性に、
人工的な匂い、あるいは政治性を感じる。
また、男性中心である点、母系制の強い琉球弧にあっては、
新しい祭儀だと思える。
そうだとすると、祭儀の名称も、
抽象的な言葉を選択するのではないかという考えから、
開発男神名を由来にをとる仮説を検証してみたところ、
音韻変化からきれいに説明がつくのに気づいた。
こんな過程で考えたものだ。
この仮説がどこまで行けるか。
シヌグ祭自体の分析やウンジャミ祭との関連について、
後日を期したい。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
クオリアさん
シニグは、凌ぐではないでしょうか?
そういう先輩の言葉もありました
視点が、大切かと思います
「もう頑張らなくていいよ?」という
云い方は、好きではありません
北京のことです
「戸籍なし」510万人。総人口1770万人突破。
チベット、増える観光薄れる伝統
建設ラッシュ、漢民族流入
パレスチナのことです
ガザ70万人電気なし
2007年8月22日
西日本新聞の見出しですが・・・
親先祖のユンヌというふるさとが元気で
いれば、キバリバドゥ
温故知新、いい言葉ですね
ところで、「チュラシャイ(ん)」は、
どういう意味、由来の言葉なのでしょうか
ユンヌンチュ方に…、?教えて下さい
投稿: さっチャン | 2007/08/22 21:33
おはようございます。
見字ら謝意。
ちゅらさい。
顔が美しい。
見た目が美しい
でしょうか?
面が美しいが 心までは どうでしょうかね。
ガシガシ がしがよー
がんなてぃ でーくとぅよー
言い訳はよそうよ お富さん。
シニレクの男神に頼りたい
ウンジャミが女神であり
山と海の祭りであろうとするが
言葉遊びはシニクレナイ
凌ぐ はあまりにも直接的すぎて
思いたくない。
投稿: awamorikubo | 2007/08/23 04:53
さっチャンさん。
チュラシャイは、
「清ら」に「しゃい(さい)」という形容詞語尾を
つけたものではないでしょうか。
「ちゅらさん」が与論島舞台だったら、
「ちゅらさい」になっていたわけですね。
視点、ですね。
シニグのテーマは、時間かけてゆっくり醸成したいと思っています。
投稿: 喜山 | 2007/08/23 15:53
awamorikuboさん。
沖縄でよく使われる「だからよー」は、
与論だと、「がんなてぃちょー」とかになるんですね。
そんな連想しました。
それにしても、morikuboさんの
フトゥバ遊びは逸品ですね。
投稿: 喜山 | 2007/08/23 15:56