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2007/08/30

琉球弧のなかの琉球弧-八重干瀬

ある意味で、琉球弧のなかの琉球弧は八重干瀬(やびじ)だ。
時を待って地上に顔を出す佇まいが、
否応なしに喚起する詩情と、
海の畑として琉球弧島人の生活の資を提供してきた豊かさが
そう思わせる。

 八重干瀬のサンゴ礁は台礁と呼ばれている。
 台礁とは陸地から離れた場所にあり、
 常に海面の上に出ている部分が少ないリーフのことをいう。
 八重干瀬にあるたくさんのリーフは全て台礁で
 日本最大の規模と言われている。
 そして、大潮の干潮の時に礁原の浅い部分が海上に浮上してくる。
 毎年、旧暦の三月三日にもっとも潮が引き、
 干上がる面積が大きくなるために
 「レニツ」という伝統的な浜下り行事(女性の厄払い)が行われ、
 池間島や宮古島から八重干瀬に渡って
 一日潮干狩りなども行われてきた。
 (『海と島の思想』 野本三吉

干瀬は特別な感情を呼び起こす。
琉球弧の民俗に関心を寄せる先達も心を奪われている。

 干瀬はさながら一条の練絹のごとく、
 白波の帯を持って島を取巻き、
 海の瑠璃色の濃淡を劃している。
 月夜などにも遠くから光って見える。
 雨が降ると潮曇りがここでぼかされて、
 無限の雨の色と続いてしまう。
 首里の王城の岡を降る路などは、
 西に慶良間の島々に面して、
 はるばると干瀬の景を見下している。
 虹がこの海に橋を渡す朝などがもしあったら、
 今でも我々は綿津見の宮の昔話を信じたであろう。
 (『海上の道』柳田國男)

これは、干瀬という存在が喚起した詩情だ。

また、谷川健一は、現世と他界の接点として見ている。

 他界を夢想するのに最もふさわしい場所が、
 南島の海岸であった。
 沖縄の海は本土と違って、
 干瀬と呼ばれる暗礁が島をとり巻いているので
 二重になっている。
 干瀬の彼方はどす黒い波がうねっている海である。
 そこには舟が発達しなかった頃は、
 島民はめったに行かない非日常空間であり、
 死んだ人の魂だけがおもむく他界であった。
 干瀬の両側は目もさめるような青い海であり、
 潮が引くと州があらわれ、島民が魚介や海藻をとる日常空間であった。
 沖縄の海の魅力は干瀬によって仕切られた他界と現世が
 一望に見渡せるところにある。
 (『魂の民俗学・谷川健一の思想』大江修編)

ぼくたちはいずれ、自然と生活と信仰の場である干瀬について、
それを琉球弧の文化の中核にすえた
徳之島の松山光秀の考察を読むことになるだろう。

八重干瀬(やびじ)は、その干瀬のなかの干瀬として、
琉球弧のなかで特別な存在価値を持っている。


追記
ここは、八重干瀬の具体的な地名が分かるのが嬉しい。

 八重干瀬地形図


『海と島の思想』 野本三吉
Ⅴ 原初的世界との共生
45 幻の島・八重干瀬



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