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2007/07/14

奄美の多層圏域と離島政策 13(最終章)

『奄美の多層圏域と離島政策』の第10章は、
「奄美の地域振興と文化」。
いよいよ最終章だ。

本章は、沖縄と奄美の観光の違いから出発する。

沖縄と奄美の観光入り込み客数は、
1977年に交錯し、その後、30年に及び、
奄美は40万人で横ばい推移しているのに対し、
沖縄は、急増し、2003年現在160万人と
奄美の4倍の規模になっている。

この相違を、著者は、
奄美の中規模島嶼は、大型資本にとって魅力的ではないからと説明する。
ここで挙げられる与論島のケースは、痛切だ。

 与論島は沖縄と比べて遜色ない海・海浜をもち、
 気候や文化もほとんど沖縄と変わらない。
 1970年代後半に、発生地の資本は
 観光マーケットでこの島の魅力を大々的に売り込み、
 この島は若者を中心とした大旅行者ブームを経験するが、
 それは一過性のものにすぎなかった。

 与論島の人々は、
 地元が動員できる資源を利用する方式、
 つまり小さな資金力と限られたマンパワーを用いた
 民宿でもって受け入れ態勢を整えた。
 観光地側が作り上げた態勢やプログラムは、
 急速に経済力を高めていった観光需要者の非日常欲求を
 すぐさま満たせなくなった。

 この時、発生地の観光資本は
 小さな面積と人口規模しか持たない与論島をあっさり見捨てる。
 その結果、沖縄観光が目覚しく伸びている最中の1980年代に、
 与論島の観光客は目立って落ち込んでいく。

これは、与論島の観光衰退と、もう少し言えば、その内実は、
民宿の衰退と「非日常欲求」に唯一応えたプリシアリゾートの持続だった。

与論島の観光ブームとは何だったのか。
それは、日本における「最果ての夢」の提供地だった。
だから、それは沖縄の復帰とともに、その座を明け渡すことになる。

もちろん、そんな外的な要因だけでなく、
与論島には、「最果ての夢」を提供するような、
「夢」を見せる魅力を持っていたことが
ブームを呼んだ原動力になっている。

言い換えれば、「最果て」という条件はなくなったが、
「夢」見せる魅力は、手中にあるのである。

 ○ ○ ○

著者の言うところに戻ろう。

奄美は、沖縄のように、地元の文化を観光向けの顔に焼き直し、
その二重性を保つ余力はないだろう。

だから、

 島の人々が楽しむ奄美文化を
 観光客も一緒に楽しめる状況を作り出す

ことを提案している。

そして、沖縄と差別化しうる奄美文化の独自性はあるとしている。


しかし、そう言いながらも、
本章ではなく、本書の末尾の考察としてはこう書いている。

市町村合併について、どんな選択をするにしても、

 全体として島嶼経済に与える負のインパクトは、
 行政あるいは住民の視野に入っていない点である。

これは、事態は厳しいことを現地はまだ認識していないということだ。

このことは、謙虚に受け止めなければならない指摘だと思う。
島の将来、奄美の未来にとって、考えなければならないことだ。

そのことは十分、受け止めた上で、
それでも、ぼくは一読者として言う自由は残っているだろう。

本書の考察は、奄美に切り込んでくれたものとして意義あるものだ。
当初、苛立ちが隠せないこともあったけれど、
刺激的で沈思黙考だけではたどり着けない実証にもめぐり合えた。

しかしことは、著者たちが手つかずの研究対象だともみなしたように、
困難な地域に住む島人の生活に関わるテーマでもある。
そこからみたら、その対象を扱う著者たちの迫力がほしい。
がん首揃えてその知力で奄美に迫るのであれば、
その知力をかけて肉薄してほしい。
そうでなければ、奄美の島人の生活の重量の前には、
気の利いた分析も、
それこそ紙片として吹き飛ぶごとくに軽いものでしかないからだ。

これはぼく自身の課題でもある。

とはいえ、稀有な考察群には感謝したい。


目次

第1章 岐路に立つ奄美と新しい島嶼研究アプローチ
     (山田誠)
第2章 離島における市町村合併の政治力学
     (平井一臣)
第3章 奄美の市町村財政と地方交付税
     (朴源)
第4章 奄美振興開発事業と建設業
     (田島康弘)
第5章 奄美の農業と農業合併
     (北崎浩嗣)
第6章 奄美の物流と流通コスト
     (山本一哉)
第7章 市町村合併と群島内の経済モデル
     (荻野誠)
第8章 奄美の出産と育児に関する地域・家族研究
     (片桐資津子)
第9章 持続的・自立的社会の創造に向けて
     (皆村武一)
第10章 奄美の地域振興と文化
     (山田誠)



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コメント

喜山さん、お疲れさまでした。
毎日読ませていただいていました。

今日、最後にまとめられていたご指摘は、強い共感を覚えます。

編者のお話を直接聴く機会も何度かありましたが、
先生方は冷房のきいた部屋の中、地元の聴衆は猛暑の中にいるような
温度差と隔たりを感じていましたから。

毎日、確実に連載してくださるのは、
夜、PCに向かう楽しみにもなっています。
深謝。


投稿: NASHI | 2007/07/14 22:29

NASHIさん、喜山です。

ああ、やはりそうなのですか。
ありがたい資料と思う気持ちとナメンナヨという思いが
交互にやってきて、読み進めにくかったのです。

奄美自身の発信を確たるものにしなくてはと感じました。

励まし、ありがとうございます。

投稿: 喜山 | 2007/07/15 11:08

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