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2007/07/11

奄美の多層圏域と離島政策 10

『奄美の多層圏域と離島政策』
第7章は「市町村合併と群島内の経済モデル」。

この章では、地方交付税の削減というインパクトが、
与える経済的影響についてシミュレーションすることで、
市町村合併のあり方が考えられている。

 筆者の研究は、広く奄美群島区における
 島別の市町村説明会で紹介され、議論を巻き起こした。
 筆者は説明会に出席せず研究メンバーにお願いしたが、
 現地からの厳しい批判にメンバーがさらされた旨の報告をいただいた。
 確かに、シミュレーションの結果は奄美群島内の
 存立に関わるものであったが、
 賛否両論を各会場では得られたということは
 現実感覚が欠如したシミュレーションではなかったと自己解釈している。

こう著者は言うのだが、その通り、
このシミュレーション結果は刺激的である。

まず、これは、「市町村合併問題は、経済統合問題」
という観点からなされる研究である、と前置きしている。

これは、市町村合併問題を、
経済問題としてだけ考える視点に立つということだ。

そこで、各市町村の「純生産」は、
交付税減少の状況下で推移した場合、2020年にはどうなっているか。
この間、何がプラス要因として働き、何がマイナス要因として働くか。
これらを最小2乗法による回帰分析でシミュレーションしている。

結果は、次のように整理された。

1)周辺町村(成長パターン)  100~20% 大和村・伊仙町・知名町
2)群島区中核都市       100%    名瀬市
3)名瀬市と距離感のある町村  90%後半 宇検村・瀬戸内町・喜界町
4)周辺町村を形成できる町村  90%前半 徳之島町・和泊町
5)名瀬市に包摂される町村   83%    住用村・天城町
6)希薄な対抗関係町村     80%    笠利町・天城町
7)沖縄経済圏         50%    与論町

「ある意味で与論町は鹿児島県経済圏からは離脱していると
考えられる結果となっている」と著者がコメントしているように、
わが、与論島については、ドラスティックな結果だ。

現に、「とくに与論町の結果は現実離れしているという批判が集中した」
とある。

この手のシミュレーションは、
2020年にはこうなるという単純な未来予測で見るのではなく、
過去の傾向を踏まえた上で、
今後、交付税減少が続くとしたらという、
現在の延長上に得られる仮定の像として
受け取るのが妥当だ。

だから、将来こうなる、と受け止めるのではなく、
今どうしたらいいかを考える材料として受け止めたほうがいいと思う。

 ○ ○ ○

ここから著者は面白いシミュレーションをしている。
沖縄県のGDPの影響が出た沖永良部と与論を「南奄美」として、
奄美諸島を、「北奄美」と「南奄美」に分ける。

そして、鹿児島県内で、「北奄美」と「南奄美」に市町村合併したらどうなるか。
「南奄美」が、沖縄県に合併されたらどうなるか。

1)鹿児島県内「北奄美」と「南奄美」

シミュレーションの結果は、2分割したほうが、
しない場合より、純生産が落ちるというものであった。

これは、2分割することにより、
名瀬市の中心性が落ちるからで、
北奄美では、2分割の意味がない。

また、南奄美では、合併してもしなくてもあまり差がない。
言い換えれば、南奄美の経済規模からいって、
分割されても、新しい中心性を得られないことに依っている。

2)鹿児島県「北奄美」と沖縄県「南奄美」

南奄美が沖縄県に合併されるに当たり、
交付税が増額されるという仮定で行うと、
南奄美は純生産を増加させるというシミュレーション結果が得られる。

これは、南奄美には望ましいけれど、
こうなるには、南奄美が合併しない場合の
純生産を下回らないことが条件であり、
県境を越えた合併をしても南奄美の財政事情が好転する保証はない。

として、2分割案は、いずれも否定的な結果になる
というのが著者の結論だ。

著者は言う。

 奄美群島区で県境を越えた合併を考えるならば、
 群島区内の沖縄県市町村との合併なら意味があるだろう。
 群島区全体に交付税の増額があれば
 効果的な結果を呼び起こすことはいうまでもない。
 つまり、県境を越えた合併という場合、
 残された地区が経済的に不利益を被るような合併は意味がない。
 奄美群島区のような中心性(名瀬市)をもつ島嶼地帯の場合、
 離島を分離して県境を移動させるのは意味がない。
 むしろ、群島区全体を沖縄へ移籍させるならば意味のあることになる。

著者の真意は分からないが、この結論は妥当だと思える。

 ○ ○ ○

ぼくはこのシミュレーションのプロセスでの思考実験がためになった。
つまり、与論島はむしろ沖縄経済圏だから、
単独で沖縄に合併されるという選択肢が浮上する。

すると、与論は奄美ではなくなるのだろうか。
それなら、ますます奄美とはいったい何なのか、
その問いは、永久に問われなくなってしまうのではないか。

ついで、与論と沖永良部とで、南奄美とする区分は、
すわりのよさを感じ、また、「南奄美」という響きもいい。

南奄美が沖縄に合併されるという場合、
徳之島と沖永良部の間の文化の境界が、
行政区分になってしまうことになる。

この場合も、奄美とは何か?が気になる。
それは、南奄美を抜いたものに収斂していってしまう。
それでいいのか、という問いがやはり残る。

だから、奄美群島全体で合併は考えられるべきではないかという
著者の結論は、奄美の文化を考えることと矛盾せず、
ひとまず落着する。

ある仮定のもとに得られる刺激的なシミュレーション結果は、
議論を活性化する。このシミュレーションに感謝したい。


ただ、付記したいのは、このシミュレーションが、
各島で賛否両論を巻き起こしたのは、
著者が言うように、現実離れしていない証左でもあるだが、
それだけ島の切実さに踏み込んだということでもある。

だとしたら、説明会は、研究メンバーに任せず、
自らが足を踏み入れるべきだったのではないか。
そこでぶつけられる住民からの声を身体に浴びることこそ、
このシミュレーションがさらに生かされる礎になるだろうからである。



目次

第1章 岐路に立つ奄美と新しい島嶼研究アプローチ
     (山田誠)
第2章 離島における市町村合併の政治力学
     (平井一臣)
第3章 奄美の市町村財政と地方交付税
     (朴源)
第4章 奄美振興開発事業と建設業
     (田島康弘)
第5章 奄美の農業と農業合併
     (北崎浩嗣)
第6章 奄美の物流と流通コスト
     (山本一哉)
第7章 市町村合併と群島内の経済モデル
     (荻野誠)

第8章 奄美の出産と育児に関する地域・家族研究)
     (片桐資津子)
第9章 持続的・自立的社会の創造に向けて
     (皆村武一)
第10章 奄美の地域振興と文化
     (山田誠)



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