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2007/05/22

異議申し立ての根拠

『しまぬゆ』の著者の視点は、「あとがき」に明瞭だ。

 奄美の古代・中世は一国民族史観や単一民族史観では
 語れないものがある。人々は国家の境界意識などまった
 く持っていなかった。奄美大島の「アマ」は「水平線の彼方」
 の意を表すものと考えられているが、その名に違わず、
 古代・中世の奄美人達は海洋民族として広範囲にわたって
 交易を展開し、高い文化を持ち、豊かな生活を営み、
 おおらかで勇壮な歴史を持っていた。
 奄美社会からそのおおらかさが消えたのは
 琉球王府による再三の大島諸島遠征であり、
 島津氏の琉球侵攻だった。

 琉球服属時代を「楽土の世」と喧伝する人々がいるが、
 奄美の人々が呻吟し虐げられたのは何も薩摩時代ばかりではない。
 琉球史で忠臣とされる護佐丸は
 与論島や沖永良部では鬼より怖い存在だった。
 泣きじゃくる子供の居る家には必ず働き盛りの壮士がいるとして、
 子供の泣き声を聞いて築城人夫を狩り出していったという。

 竜郷町の瀬留には琉球軍が攻めてきた時、村人が山奥
 に隠れていると、カチャマタ(鍛冶屋又)で白い鶏が鳴いた、
 こんなところに鶏がいるのはきっと人が隠れているに違い
 ないと、琉球軍は探索の手を緩めることなく探し回り、
 村人を引き出して皆殺しにした。人々はあの鶏さえ鳴か
 なかったらと恨みながら死に、それ以来この村では白い
 鶏が育たなくなったとの伝承がある。

ぼくは、著者の「奄美人の目」では、奄美をかばいきれないと思う。
著者は、薩摩と琉球による奄美支配を同等に扱っている。
しかし、そもそも薩摩による奄美支配と、
琉球による奄美支配とではその意味が異なる。

琉球による奄美支配は、
地勢と自然と文化の同一性を根拠に、
その内部から起きた国家形成の造山運動と見なせる。

しかし、薩摩による琉球支配は、
地勢と自然と文化の同一性からは遠い、
外部からの支配を意味していた。

それゆえ、奄美には二重の疎外が生まれる。
薩摩と琉球の支配に差異を見出さなければ、
奄美を長らく患わせてきたことの本質を
つかむことはできないのである。

 ○ ○ ○

 焚書坑儒は支配者の常套手段である。琉球軍の大島侵攻
 によりそれまでの歴史は塗り替えられ、薩摩藩時代には
 元禄六年(一六九九)を皮切りに、琉球辞令書や諸家計図・
 古文書類の差し出しが再三命ぜられ、その古文書類を収蔵
 した保管庫が火事により消滅、あるいは記録奉行が焼却
 したと言われ、現在残っている史料はその写しや収集を
 免れたものだけだとされている。

ぼくは、一六〇九年を扱った『しまぬゆ』が、
原始・古代から書き起こしているにも関わらず、
終わりは、薩摩による戦後処理で止めていることに
不徹底を感じる。

焚書坑儒を「あとがき」で触れるに止めているけれど、
奄美の二重の疎外が完成していくのは、
薩摩による奄美支配の過程においてである。

その過程を俎上にのせなければ、
二重の疎外の構造が浮かび上がってこない。
それはつまり、薩摩に対して、
何を異議申し立てするのかという根拠が
抽出できないということである。

琉球王国による奄美支配も薩摩藩による奄美支配も、
外から余計な勢力がやってきて
余計な支配をしてくれたという点では、
日本のどこの地域とも似たり寄ったりと言えるかもしれない。

異議申し立ての根拠はそこにはない。

奄美による薩摩への異議申し立ての根拠は、
近世国家による領土拡張以上の薩摩の欲望にある。

・対奄美の収奪の強度
・歴史的記述の没収による過去の断絶
・大和風服装の禁止による未来の断絶
 (大和風を着たかったという意味ではない)

この三つの強制により、奄美は、過去とのつながりを断たれ、
未来の像も断たれ、永遠の「今」のなかで、
困難のみを背負わされたのである。

これが、二重の疎外を確たるものにした要因である。

四世紀を経て、それがなぜ問題なのか。
それは、二重の疎外が、
いまだに解けていないからである。

解けないものは解かなければならない。
四世紀経とうが、時間は関係ない。
解かなければ、
奄美が真に前向きに生きてゆくことは難しいではないか。



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