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2007/05/31

「琉球民族」は存在するか

『琉球弧・重なりあう歴史認識』に、
高橋さんは、「『琉球民族』は存在するか」と題して
論考を寄せている。

問い:琉球民族は存在するか。
解答:存在しない。日本民族が存在しないのと同じように。

ぼくは思わず、そう答えて、
高橋さんもそう説いているのだろうと思いながら、
読んでみると、必ずしもそうではなかった。

 さらに、国連の先住民作業部会に<琉球民族>は
 先住民族であると主張し代表を送っている奄美、沖縄の
 若い世代の主張を無視してはならない展開である。

 なぜなら、たとえ「民族」は、
 (国家が「想像の共同体」であるように)
 「想像上の旗印」にすぎないにしても、
 <琉球民族>の主張が、
 国家という外部からの「名付け」ではなく、
 新たな内部からの民族の「名乗り」だからである。

「『琉球民族』は存在するか」は、こう結ばれていて、
ぼくは好ましく思った。

概念の正否でことを判断しない、
しなやかな視線を感じた。

 ○ ○ ○

高橋さんはエスニシティの視点と呼んでいる。

エスニシティ。

耳慣れないので、辞書を見ると、新語として登場している。

 エスニシティー【ethnicity】
 共通の出自・慣習・言語・地域・宗教・身体特徴などによって
 個人が特定の集団に帰属していること。

ということは、ぼくが与論島の出身者として
「与論」に属していると感じていること、
また、それを拡大すると、「奄美」に属していると感じること、
さらに、地域の自然・文化の親和性から拡張すると、
「琉球弧」に属していると感じること。

これらは、エスニシティと理解していいということだろうか。
そう、受け止めてみる。

高橋さんは書いている。

 エスニシティは国民国家の枠組みの中で、
 ドミナント集団に対し、少数派のエスニック・グループが
 自集団に対して示す帰属性の総体であり、
 「日本人」と「沖縄人」の民族的起源の同一性を強調する
 日琉同祖論とは相容れない考え方である。

高橋さんの解説を受けとめると、
エスニシティは、民族論に回収されず、
その手前に止まるための概念であり、
また、民族の解体表現であるように見える。

高橋さんは、エスニシティという概念を手にすることによって、
沖永良部を単体で取り上げる論拠を得たのかもしれない。


ぼくは長いこと、与論島のことを書きたいと思ってきた。
けれど、何をどう語ればよいのか分からなかった。
与論島は歴史には登場しないことをもって旨とし、
島人も自己主張しなことを旨とすると言わんばかりで、
取るに足らない存在と自己規定しているように思えてくるのだった。

ただ、与論島に感じる、
あの得も言われないとろける感じは無類で、
他に代わるものがないことは、
何にも増して確かだった。
ぼくはその実感に固執してきた。

沖永良部の隣島に出自を持つ者として、
高橋さんの論考は、ぼくのやりたいことの先行に見えた。

それは嬉しい出会いだ。

『琉球弧・重なりあう歴史認識』

【目次】

琉球弧をめぐる歴史認識と考古学研究
-「奄美諸島史」の位相を中心に
(髙梨修)
関係性の中の琉球・琉球の中の関係性
(吉成直樹)
「糸満人」の近代─もしくは「門中」発見前史
(與那覇潤)
「琉球民族」は存在するか
─奄美と沖縄の狭間・沖永良部島をめぐる研究史から
(高橋孝代)

幻の島─琉球の海上信仰
(酒井卯作)
大城立裕文学におけるポストコロニアル
─ハイブリッドとしてのユタ/ノロ
(リース・モートン)
在関西のウチナーンチュ
─本土社会における歴史と差別・偏見体験
(スティーブ・ラブソン)
多元的歴史認識とその行方
─アイヌ研究からの沖縄研究の眺め
(坂田美奈子)



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コメント

高橋さんや喜山さんが島から出られて、
どのように郷里に対する認識を重ねてきたのか、
僕には想像できません。

奄美大島から言えば、
お二人のご出身は、
見える島(喜界島・徳之島)ではなく、
見えない島(沖永良部島・与論島)です。

奄美諸島を「国家境界領域」という概念で捉えた時、
いろいろと理解できる歴史的事象がありましたが、
「国家境界領域」もまた均質の空間ではないことを
お二人の言説は突きつけています。

そういう「奄美諸島」という領域単位にますます想いを深めています。


投稿: NASHI | 2007/05/31 22:13

NASHIさん、コメントありがとうございます。

そうですよね。島はそれぞれ、ですから。

でも各島の方言や自然を知っていくと同じだと思えることが多くて。
共有していることをお互いが知らないエリアと、
奄美や琉球弧を定義したくなるくらいです。

ぼく自身は、NASHIさんの活動で、
奄美の各島のことがよく見えてくるようになりました。
ありがとうございます。

それを手がかりに、奄美とは何か、
言葉を探り当てていきたいです。

投稿: 喜山 | 2007/06/01 08:49

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