垂直転換による異次元連結
ぼくたちは、自分自身のイメージ的身体、つまり分身を置くことで
インターネットに参加している。たとえばeメールは自分の分身とし
てメッセージをどこへでも送ってくれるし、ウェブサイトやブログは、
日記として自分の日常生活や思考の断片を読みたい人に伝えてくれる。
これらは自分の分身なのだ。
インターネットの分身化によって新しく実現したのは、通信の異次
元連結だと思う。つまり、いままで出会うことのなかった、つながる
ことのなかった立場同士が、直接、つながったことだ。
2001年に開始された小泉内閣メールマガジンはその一例だ。一
方的なメッセージとはいえ、このメールマガジンで、一国の首相とぼ
くたち一人ひとりがつながったのだった。
この通信の異次元連結の意味をよく表したのは、企業と消費者のコ
ミュニケーションだった。企業と消費者のコミュニケーションは、そ
れまでは、TVCMが典型的で、商品、企業、ブランドの映像がTV
を介して一方的に伝えられるだけだった。そこでは企業が発信者であ
り、消費者は受信者だった。消費者が発信者になるケースは苦情が典
型的で、たとえば百貨店の売場なら、お客様相談室でしかるべき担当
者が対応するという構図で、その場面は限られていた。
ところがインターネットは、一方的かつ限定的だった企業と消費者
を、eメールを介して、一対一につなげたのだ。
ただ、つながればコミュニケーションは可能になるというものでは
ない。道が通じていても、お互いどんな言葉を投げかければ、話がで
きるのか、そこには話すための了解事項が必要だ。ブロードバンドに
なる前、ダイヤルアップ接続時代にインターネットにつなごうとする
と、途中、「プロトコル確立中」というメッセージが流れた。そして
しばらくあってパソコンはやっとインターネットにつながったのだ。
あのなんとも言えない間合いは、まだインターネットの異次元連結の
約束事が確立されていないために、まるで必要な諸手続きを画面の向
こうで行っている時間のようだった。そのように、プロトコル、通信
規約はコンピューター間だけではなく、企業と消費者のコミュニケー
ションにも必要なのだ。
それをまず実行して見せてくれたのは、eメールマーケティングだ
った。
まず、商品のプロモーションメッセージをeメールで受け取っても
よいと許諾した消費者に対して、コミュニケーションするということ。
これが、はじめのルールだ。これで、発信は一方的ではなくなる。つ
いで、これがとても重要なのだが、企業からの発信主体が、商品や企
業なのではなく、企業の商品担当者という個人になることだった。e
メールは一対一のコミュニケーション手段なのだから、考えてみれば
当たり前なのだけれど、企業のメッセージを個人化することで、コミ
ュニケーションは双方向的になったのである。
図示してみる。インターネット以前、企業と消費者は、企業がメッ
セージを消費者に落とすように一方的な発信で、消費者は受信者の立
場にとどまらざるをえなかった。ところが、インターネット以降は消
費者の許諾と企業担当者の登場という相互変化で、双方向のコミュニ
ケーションへの通路が開けたのだった。企業担当者の登場のシンボリ
ックな言葉は、「こんにちは、○○です」という至極当たり前な挨拶
だった。この挨拶から始めるコミュニケーションで、企業と消費者に
対話の通路が開けたのだ。
このとき、企業担当者は、ビジネス(生産)の立場に半分、消費者
(消費)の顔を加えてそれを実現し、消費者は、半分ビジネス(生産)
の立場を加えて実現したのだった。
(超自然哲学12 「3.インターネットの新・相互扶助」)
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