『南の島のたったひとりの会計士』
『南の島のたったひとりの会計士』は、
会計士を超えて。
屋宮久光さんの『南の島のたったひとりの会計士』を
楽しく読みました。
そして、奄美大島にこんな人がいると、
嬉しくなりました。
屋宮さんは、奄美大島出身。
高校から鹿児島へ出て大学へ進み、
その後も勉強を続けて公認会計士の資格を得ます。
そして資格を活かして福岡で活躍するのですが、
父の他界と母の心配が契機になり、
奄美大島へ帰ることを考えるようになります。
奄美群島振興開発特別措置法による補助金
漬けの経済で弛緩しきった島は、自らの手で
産業を興す気配すら感じられません。公共事
業という名の麻薬の切れる前に、次なる奄美
への道しるべを付けなくてはならない。今こ
そ公認会計士として出来ることがあるはずだ。
父が眠る奄美、母の残る奄美、そして私の根
っこである奄美が苦しんでいる。母なるシマ
へ戻り、郷土のために死力を尽くさなくては、
という思いが湧き起こってきたのです。
こう考えた屋宮さんは奄美大島へ、
友人の大反対を押し切って帰島します。
友人が反対するのも無理はありません。
いえ、友人でなくても反対する人は多かったでしょう。
それは公認会計士を必要とする規模の企業のない奄美ゆえに、
資格が意味をなさないということもありますが、
それ以上に、希望と気概が強ければ強いほど、
「失望する」のが目に見えているからです。
♪ ♪ ♪
屋宮さんは、帰島します。
その後の展開は物語のように、
この本で楽しむことができます。
奄美大島の現状に驚き、あきれる。
たとえば、一時間遅れるのは当り前のような島時間。
それに苛立ち、愚痴を言うようになります。
あげくに毎晩の酒に、
朝の迎え酒が加わり、屋宮さんは、
いつしかアルコール依存症になってしまいます。
当然の結果として、太るだけでなく身体を壊すのですが、
吐血したのをきっかけにお酒を断つときがやってきます。
そこから、物語は回復へと向かうのです。
台風の夜、
会計のアドバイスをした企業経営者から、
明日までに事業計画書を作らなければならないと言われ、
知人友人に声をかけ、
会計の守備範囲以上のことをみんなでやり遂げる。
そのところで、物語は出口を迎えます。
♪ ♪ ♪
こんな空回りからギヤが入るまでの過程で、
面白いのは、アルコール依存症といっても、
どこかで屋宮さんはしらふでいて、
むしろ吐血を待っている心境でいることです。
一度、倒れてから立ち上がる。
一度、倒れないと立ち上がれない。
それが自身の資質だというように、
屋宮さんは、倒れ、また立ち上がります。
そこには余裕すら感じられるのですが、
それは欺瞞というようなものではなく、
奄美の熱い陽射しがもたらす生命力を、
屋宮さんも受け取っているからだと感じます。
そう言いたくなるのは、もうひとつ。
ここにあるにはノン・フィクション、実話なのですが、
それがどことなく物語と感じられることです。
それはきっと、
話の背景に点景される亜熱帯の自然が穏かで優しいことと、
奄美の人の話しぶりが、
のんびりした親密感にあふれているので、
この世のものではないような雰囲気を
まとっているからだと思えます。
「やっぱりこの道でいいちよ」。
この方言というか訛りは、
ぼくにもたまらなく懐かしいものに映ります。
しかし、これはもちろん実話です。
奄美の現実にしっかり立ち向かう屋宮さんの奮闘を応援したい。
そんな気持ちになりました。
そして、与論島出身としてはもうひとつ。
奄美を自分の力で立ち上がることができる島にする。
この言葉を、ぼくも引き受けたい。
そう思うのです。
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