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2005/10/08

与論という絶対

zinseinookurimonoまさに人生の贈り物のように、
森瑶子の『人生の贈り物』を読みました。

これを読むと、
与論を愛し与論に居を定めることになった
女流作家の作品を
ぼくがこれまで読むことが無かった理由も、

それでもそれとは別にある接点を見つけることができた
気がしました。


まずもって、ぼくはこの作家の持っている派手さに縁遠い。
嫌いだというのではなく、およそ縁を感じることもなさそうです。
縁遠く感じる分だけ、ぼくは作家の与論への寄与への関心にも
かかわらず、その作品を手に取り損ねていたのでしょう。

それと、もうひとつ。
何というか、対象への触れ方にも隔たりを感じます。

 あまりに美しいものを見ると、私は必ず悲しくなってしまう。
 最初の印象はそれだった。美しいものは私を悲しくさせる。
 多分それは、男でいえば、ずっと先の別れを内包しているから
 だと思う。悲しくなるのは、自分が必ずやそれを手に入れる
 だろうこと、そしていつかそれを失うことを予感しているからだ。
      (『人生の贈り物』「ベネチアン・グラス」より)

たとえば、こういう述懐に対しては、
作家の強烈な希求を思いこそすれ、共感には遠くなってしまいます。

ずっと続くことを穏やかに予感させる美しいものとの出会いも
あるだろうと、ぼくは思うからです。


そうやってはじめは、森さんの感じ方に驚きながら読み進めました。
けれども次第に違和感は薄れていって、
共感と呼べばいいのか、接点を感じるのでした。

この作家の作品を手にする機会は、
彼女の生前、ぼくには訪れませんでした。
そのことに理由はある。

そう思うものの、それだけではない。
この作家と共通点もある。
そうも思えてきたのです。

それは、この本の後半、「ヨロンの海と同じ色のガラスの魚」
で、はっきりしました。

 贈り物にはもうひとつのパターンがあるのを忘れていた。
 自分のために手に入れて、大事にしているコレクションを、
 ふと思いついて、「これをあの方に差し上げよう」という
 贈り方だ。
(『人生の贈り物』「ヨロンの海と同じ色のガラスの魚」より)

本には、他の章と同様に、彼女が美しいと感じたものの写真が
添えられているのすが、この章も例外ではありません。

そこには、魚を浮き彫りにした小さな、
それはきれいな青い色の瓶があります。
そして彼女は、それを「ヨロンの海と同じ色」と表現するのです。

美しいものは悲しくさせる。
そういう感想にぼくの心はあまり動きませんが、
美しいものを「ヨロンの海と同じ色」と表現することには
絶対的に同意してしまいます。

そうそう、と。
ああ、ここだけは同じことを感じているのかもしれない、と。

与論の島の海は美しい。
そう言っているのではありません。
いえ、そうに違いはないのですが、それだけではないのです。
森さんは、与論の海に絶対を見ているのです。

そうではないでしょうか?
彼女に美しいと思わせ、悲しい予感すら抱かせ、
我が物にせずにいられないと思わせる。
そのひとつに、与論の海もあったはずですが、
それは、そこに彼女が絶対を見ているからこそなのです。


ここで接点は生まれます。
ぼくも与論島には絶対を見てきました。
その海にも自然にも、人と人のつながりにも。

それは故郷に対するひいきの気持ちも含まれるでしょう。
それを認めます。
けれど、一方で、違う、絶対に違う、
ここは他の場所とは違う。
ここは、なんといっても「絶対」を感じさせてくれるから。

そう、ずっとずっと感じつづけてきたからです。

それはぼくだけの感覚ではなく、
与論を愛する多くの人にとってもあると確信しています。
幸運なことに、最近も、
与論に絶対を見た風景に出会うことができました。

そんな与論に絶対を見た人として、ぼくは森さんに共感を覚えます。
それが、よき香りとともにこの作品から届けられる大切な贈り物でした。

与論に絶対を見る方には、機会があればお勧めしたい一冊。


思えば明日はジョン・レノンの誕生日。
略歴を見ると、森瑶子さんはジョンと同い年。
誕生日もひと月と離れていない。

いまはジョンのいない世界であると同時に、
森瑶子のいない与論でもあるのですね。

けれど、ジョンの曲がぼくたちの中で生きているように、
森さんが与論に絶対を見た視線も、ぼくたちの中で生きている。
そうではないでしょうか。

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