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『時間単位の市場戦略』

 「時間単位の市場戦略」は、「時間」に着目してマーケットを見るということだ。谷口正和は書いている。

 マスターゲットからタイムテーゲットへ、この視点の切り替えがすべてなのだ。顧客は均質化したマスとしては存在せず、時間帯のなかだけに存在する。

 この一節、なんだかあれである。あれ、を思い出させないだろうか。

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。

 そう、これ。

 それはさておき、

『時間単位の市場戦略』
Zikantani









 マーケティングのなかで一番危うい概念はターゲットだ。それは、マス(=大衆)という括りではどの商品も広すぎて太刀打ちできないという以上に、消費者を“狙い撃ち”する対象として見做す視点自体が無効化している。

 谷口はこのマスターゲット無効の時代にあって、「時間」という視点を導入しているのだが、この視点の新しさは、狙い撃ちする対象を「消費者」から「時間」に切り替えている点にある。この視線変更について、ぼくはハートランド・ビールのターゲット設定を思い出した。

 ※ハートランド」(ザ・マーケター)

 ハートランドの商品開発は、ターゲットの放棄から始まっている。デモグラフィックな属性で区切るのは止めよう、来させようと考えるのは止めよう。同じ価値観の人が自然と集まる場所にしよう。ハートランドはそう発想している。そしてこれを実現するのに、マーケターはターゲットの研究をするのではなく、「商品」と「場」が共感に値するものになるように大量かつ高質のソフトを注ぎ込んだのだった。

 ここでマーケターは、ハートランドに訪れるニーズを、「職場でも家庭でもない第三の場がほしい」と想定するのだけれど、それは、仕事が明けて家路に着くまでの夕方から夜の時間にかけてになる。ここからみると、ハートランドがターゲットにしたのは、「時間」なのかもしれなかった。

◇◆◇

 ワンダ モーニングショット

 アサヒ飲料の朝専用缶コーヒー「ワンダ モーニングショット」がヒットしている。挽きたて抽出と独自の新抗酸化抽出など、朝専用を証明する切れのよさをアピールした商品内容が謳われているが、ヒットした最大の理由は「朝専用」とコンセプトを確定し、そのコンセプトをストレートにアピールした点にある。
 朝専用と言い切ったから、朝飲まれるようになったのだ。強く自信を持って言い切れば、それが現実になる。情報と心理の時代の逆説的説得法である。シンプルなコンセプトが持つ強さである。

 これは、「朝専用」と書いてあるから飲むきっかけになった。けれどその後は朝じゃなくても飲んでいる、というのが正確なんじゃないかと思うが、「ワンダ モーニングショット」は、確かに、「朝」という時間に着目して開発した商品だ。

 セブン-イレブン

 一九七五年、日本で最初に二四時間営業のコンビニエンスストアをオープンさせたのはセブン-イレブンであるが、そのときおもしろい現象が起こったという。「ニ四時間オープンにしたら、昼間の売り上げも上がったというのである。
 これは、時間に対する顧客心理のなせる技だろう。二四時間オープンしている、「いつでも開いている」という安心感と、「いつでも買い物できる」という安心感がつながり、結果、全体の時間帯で顧客増につながったのだと見ることができるだろう。
 つまりこのとき、人ははじめて、まったく今まで存在していなかった二四時間ライフスタイルに具体的に出会ったのである。その心理的影響の大きさが、マーケットに思いもよらない変化を与えたのである。

 これも実感的によく分かる気がする。いつでも開いているという安心感が消費者を呼ぶと同時に、消費者はそこで初めて、1日が途切れのない24時間であることを具体的に知るものを持ったのだ、と。それは、インターネットの前に、ぼくたちは24時間サービスを知っていたのであり、ことによると、インターネット生活の露払いをしたのかもしれなかった。

 時間は常時覚醒へと励起される。一方で、歴史的に見ると、時間は圧縮されてきた。谷口が引いているのは、「今の一年は昔の一〇万年に当たる」という仮説だ。

 つまり、われわれ現代人は昔の人に比べて、一〇万倍はやい時間のなかを生きていることになる。

 一〇万倍。どうりで、みんなイライラしやすいわけだ。

 時間圧縮は、個々の場面にも向かう。

 ウイダー inゼリー

 森永製菓の「ウイダー inゼリー」のキャッチフレーズは「あなたには、あなたの10秒メシ。」lである。従来のご飯を食べるという概念にはない時間幅だろう。通常の食事時間を一時間と見れば、一〇秒メシは三六〇分の一の時間ですむ。  電車のなかでウイダー inゼリーを食べている人がいる。一瞬にして終わりだ。一〇秒メシとまでいかないまでも、ハンバーガーやおにぎりくらい、もはや電車のなかで食べるのは当たり前の時代になった。

 「ウイダー inゼリー」は、同じ「時間」でも、時間圧縮に着目して商品開発したものだ。

◇◆◇

 この本は、こんな風に、「時間」着目型の商品開発例がいくつも挙げられている。

 劇団四季

 日本の劇場は通常月単位契約のため、大ヒットを飛ばしても、収益が限られてしまう。大ヒット作品は、一年を通じて、あるいはそれ以上のロングラン上演にしないと、大きな収益は望めない。そこで劇団四季は、専用劇場を持つことに踏みきったのである。

 劇団四季は、このように専用劇場を持つことにより、上演カレンダーを思うように作成することを可能にした。日本中で、「時の波カレンダー」 に応じて上演しているのだ。

 SHIBUYA109

 今、世界のショッピングセンターのなかで、最高の売り効率を見せているのは、文句なく「SHIBUYA109」だろう。東京・渋谷、駅前交叉点に建つ地上八階、地下二階のこのファッションビルは、午前一〇時から午後九時まで営業され、マルキューの呼び名で若い女性の間で圧倒的人気を誇っている。なかにひと足踏み入れると、全館に響き渡る大音響の強烈な音楽と、頭のてっぺんから足の先まで109ファッションを身にまとってひしめく一〇歳代、二〇歳代の女性たちの姿に庄倒される。

 たとえば、月坪効率が四〇〇万円を上回る代表的ショップ、レディスウエアのCECIL McBEEがそのひとつだ。「女のコはいつでも、かわいく、輝いていたい…」をコンセプトに、それぞれのシーンにあったいちばん輝けるファッションを提供するこのショップは二階に位置し、約六五坪の店舗に、ショップの商品を着こなした女性スタッフが客の応対にとびまわっている。
 その店頭を見ていると、あることに気がつく。一時間単位で店頭に変化が起きるのだ。時間帯によって、ディスプレイされる服が次々に替えられていくのがわかる。フィールドワークとして109に行き、店頭の変化を自らの目でつぶさに定点観測していて、それに気づいた。一時間ごとに連続写真を撮って較べてみると、一目瞭然だ。
 セシルマクピーのスタッフは、日々、どの時間帯にどの商品がよく売れるかをつぶさに観測し、店頭に配置する商品を次々に入れ替えていくのだという。スタッフの確かな時間帯顧客認識が驚異の売り上げの根底にあるのだ。

 もうひとつ、SHIBUYAlO9の連続的成功を可能にしているタイム・マーケティングの仕組みを見てみよう。なんと、約二〇店舗あるショップのうちのおよそ半分にあたる約六〇店舗が、毎年入れ替わるのである。つまり、五〇パーセントのコンテンツが年々入れ替わることになる。大変な入れ替えの鮮度である。
 このやり方は、テレビ局の番組製作やコンビニエンスストアのマーチャンダイジングとよく似ている。つまり、109はもはや流通産業ではなく、情報産業であり、コンテンツ産業なのである。

 メガマック

 メガマックの瓢間限定既、l発は、結果として、みごとな「時起こし」販売になったといえる。メガマック自体がすぐれた価値を持っているかどうかという論議は、二義的なものにすぎない。もちろん、物として見ればそれなりの価値を持っていることは当然のことであるが、結果として、時間限定販売になったところに顧客支持があったのだ。ハンバーガーを「物」だと思っている人は、ここで間違えてしまう。

 カップメン

 カップメンは、「三分間の価値」というものを圧倒的に引き上げた。お湯を注いで三分間たたなければカップメンは存在しないのと同じだし、逆に三分間より長くすぎてしまうと伸びきってしまって、やはり存在しているとはいえなくなるほど食としての価値は下落する。カップメンにとって、お湯を注いでからの三分間がもっとも価値の高まる「時」なのである。  その「時」を逃すと、価値はいっきに低下する。

 朝時間.jp

「朝からはじまるすこやかなココロ、キレイなカラダ」をコンセプト宣した「朝時間.jp」という女性向け人気ポータルサイトがある。朝の「時間価値」の創造がテーマで、アクセス数が急増しているという。ココロ、カラダ、お買いものの三つのカテゴリーに、簡単朝ごほんレシピ、目覚めすっきり術、朝コンシェルジユおすすめの朝グッズなど「ちょっと憧れの朝型生活のためのヒント満載」というサイトである。

◇◆◇

 時間着目のマーケティングについて、ヒントが多いので、長くなったが例を挙げてみた。
 谷口はこれらの例を受けて、こう続けている。

 顧客に留まっていただかなければ、われわれが提供する価値はない。どんなすぐれた商品であっても、それを使う時間、それに興味を示す時間、それを学ぶ時間、その話を聞きたがる時間が存在しなければ、その価値が顕在化することはない。

 これもまたまた冒頭の一節を思い出させる。いまは方丈記的な時代なのだ。

 これは同時に「優れた商品、必ずしも売れるに非ず」という現代の商品開発の前提を思い起こさせる。だから、マーケティングは「店頭」に活路を見いだそうとしている。ぼくたちはこの本を受けて、「店頭」という他に、「時間」という活路があることを知らされるのだ。

 ぼくは新商品開発の活路のひとつは、「時間」とそれに伴う「場」、つまりオケージョンであると考えている。その意味で、この本は、問題意識が重なって興味深かった。「オケージョン・マーケティング」の領域があることを確認できたのが収穫だった。

 80年代に読んだことのある谷口正和を久しぶりに読んで、キーワード・メーカーとも言うべき言説はいまも健在だということも確かめることができた。

 ただ、24時間すべてを市場と見做すこと、意識されるときだけが存在するときという定言には、時間資本主義が空間と時間を覆い尽くしてはいけないという限定を対置しておきたくなる。夜は寝るのだし、スーパーはコンビニではないと思ってしまう。けれど、ここではそのことには触れない。代わって、もうひとつ、マーケティングというサービスのあり方にも示唆のある言葉を引いておこう。

「プロフェッショナル時間代行サービス」とは、顧客に代わって、顧客の要望を満たすのにもっともふさわしいものを選択し、買ったり借りたりコーディネートしてくれるエージェント型サービスである。このサービスを受ければ、顧客は本来かけねばならなかった時間をゼロにし、しかも望むものを手に入れることができる。  そう見切ったときに、われわれは急にいろいろなものが見えてくる。つまり、プロフェッショナルとは「顧客の絶対時間を奪わない人」ということになる。加えて、「最高の結果を提供できる人」である。

 なるほど、だ。


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