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『買物欲マーケティング』とは

 商品をつくる開発マーケティングからいえば、消費者視点の商品づくりは、

 「作る」を「使う」から考える

 ことを目指していた。でも、それだけでは足りない。よい商品は消費を保証しなくなっている。商品を売る販売マ-ケティングを考えなくてはならない。で、顧客視点の商品販売は、

 「売る」を「買う」から考える

 ことなのだが、このテーマを追究しているのが、『買物欲マーケティング―「売る」を「買う」から考える』だ。

Kaimonoyoku










 この本では、買い物したい欲求をひと口に「買物欲」と呼んでいるのだけれど、従来は、モノに対する欲求である「モノ欲」で済んできたのに、いまは、買い物したい「買物欲」自体が目的化しているという。買物欲が台頭してきたのだ。どうして台頭したのかといえば、そもそもモノ余りで本当にほしいと思えるものがなく、かつ、ネットのクチコミで商品情報を知ってしまうので、モノ欲が育ちにくくなっている。その反面、ヴィレッジヴァンガードやドン・キホーテのよに、買物プロセスを楽しむ店が増えてきたり、フリーマーケットやネットオークションで、買い手の経験を持つようになったことで、買物欲が育つ場面が増えてきたからだ。

 そこでこの本が提唱しているのが、「買物欲マーケティング」だ。

人はモノを消費する (=消費者)、だからつくれば売れるという「プロダクトアウト」から、人はモノを単に消費するのではなく、生活を営んでいるそのなかで必要となるモノを探している (=生活者)という「マーケットイン」を経て、これからは、人は自分に合うモノに出会いたい (=買い手=ショッパー)という「ショッパーイン」 の発想が必要だ。
これが買物欲マーケティングである。

 従来、消費者のウォンツは、消費をする、つまり商品を使う(食べる)ときのことを考えればよかったし、商品が提供するベネフィットも、商品を使う(食べる)ときのことを考えることだった。ところが、「モノ欲」以外に「買物欲」を独立させるということは、購買時のウォンツとベネフィットを考えるということだと思う。

 まず、顧客として購買ウォンツを持ち、ついで、消費者として消費ウォンツを持つ。購買時に商品の提供するベネフィットと消費時に商品の提供するベネフィットはイコールではなく、ずれたり大小があったりする。購買時のベネフィットを消費時のベネフィットが上回っていなければ、商品は購入されてもリピートされないと言えるかもしれないが、その前に、購買時のベネフィットをしっかり提供しなければならない。消費時のベネフィットが大きくても、それは売れることを保証しなくなっているのだから。

 「買物欲マーケティング」からはどんな視野が開けるのか。それは、買物を楽しむ方向にある。

■三秒の買物を三分の買物に
何も考えずに、三秒で終わってしまうような買物は、買物自体が楽しいとはいえないのではないだろうか?
たとえば、スーパーで豆腐を軍っときを考えてみよう。買物カゴを持った主婦は、豆腐売場で、何秒で豆腐を選んで、買物カゴに入れているだろうか?
おそらく、木綿豆腐か絹ごし豆腐かパッケージで見分けただけで、買物カゴにさっと入れるような買物であっただろう。
豆腐を三秒で終わる男物をする人は、豆腐にはさほど興味がなく、どれでもいいやという人であろう。もしくはよほどお気に入りの豆腐があって、そればかりを選ぶという人かもしれない。このように、豆腐は買物の楽しさを堪能できていなかったかもしれないが、そんな豆腐の買物を変えた商品がある。いままで三秒で豆腐の買物が終わっていた人も、その商品を見つけると、手に取り、じっくりパッケージの裏まで読みたくなる、そして、どんな味がするのかとワクワクするのである。

 ぼくたちが、『買う気にさせる3秒ルール』を書いた時、狙いは、短い時間を使ってスーパーで買物する主婦は、衝動買いと言われたりして、まるで何も考えてないかのように思われがちだが、そんなことはなく、夕飯のメニューを夫の健康や子どものリクエストや天気などを考慮しながら、実に高速に処理して買物していることを明らかにすることだった。そうすることで、本を書いていた頃、不況下で、「特売」しか購買動機に関われないような硬直した販売促進策に、別の視点を導きたかったのである。

 ぼくたちは、スーパーでの買物を微分化して見たのに対して、「買物欲マーケティング」は、スーパーだけを売場の対象とみなさず、しかも楽しさの視点があり、いわば買物を積分化して捉えていて、それが「3秒から3分へ」という視野を生んでいる。

 また、 「ショッパーイン」の発想が面白いのは、従来の商品カテゴリーに対して、ショッパーカテゴリーの発想を促すことだ。たとえば、日々の買物では、「自分へのご褒美に」は、顧客のつぶやきの頻出単語は、そうして選ばれる商品は、アイスクリームだったりスイーツだったりプレミアムビールだったり、と商品のカテゴリーを横断している。でも、顧客のなかでは、アイスクリームとスイーツとプレミアムビールが、「自分へのご褒美」として並んでいるのである。この視点が、ショッパーカテゴリーだ。

 このアイデアを手がかりにして、「買物欲マーケティング」の実践編として3つのステップを挙げている。

 1.ショッパーカテゴリーの発掘
 2.あるべき買物インサイトの発掘
 3.買物シナリオの設計

 開発マーケティングから販売マーケティングへと、マーケティングの重心が移ってから、中でも消費者の購買ウォンツに着目した店頭マーケティングの実践が盛んになっている。そこでは、「『売る』を『買う』から考える」のをベースにしながら、その先に、「『作る』を『買う』から考える」開発マーケティングへのフィードバックが必要とされているのだが、そこまでのプロセスはなかなかつかめていない。でも、「買物欲マーケティング」の3ステップは、そのつなぎまで射程に入れたマーケティングになっているのが新鮮だった。

 これは個人的な意見だけれど、これまでぼくは「インサイト」というと、消費者を操作対象と見なす視点を逃れていないのではないかと思ってきた。だが、この本にいう「買物インサイト」は、そうではなく、商品の持っている価値をどのようにメッセージすれば顧客に、購買ウォンツに、訴えるのかという、道筋をつけようとする努力に思えて好感を持った。





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